「声が枯れるまで:舞の叫び」
起:
高校2年生の舞は、演劇部の中心的存在で、彼女の声はまさに舞台の命。伸びやかで表現力豊かなその声は、誰もが憧れるものだった。次の大会に向けて、舞はまたも主役を任されていたが、ある日、練習中に事件が起きる。体育館での練習中、部活中の男子バスケ部のボールが飛んできて、見事に舞の顔面に命中。「ゴンッ!」と響き渡る音に全員が一瞬凍りつく。
その後、舞は倒れ込み、しばらくして起き上がるが、みんなの前で叫ぼうとした瞬間、「え?声が…?」。驚いたことに、舞の声がほとんど出なくなってしまった。花が「大丈夫?でも…その低い声、ちょっとカッコいいかも!」と気を使うが、舞にとっては大問題。どうやら、声帯を一時的に痛めたようで、まともな声が出ない状態に。
承:
大会はもうすぐなのに、舞の声はかすれたまま。顧問からは「少し休めば治る」と言われるが、舞の焦りは募る。しかも、練習中に出てしまう低いガラガラ声に部員たちが「それ、悪役っぽい!」とからかう始末。花も、「もういっそ、全編通して悪役に路線変更する?」と冗談を言って笑わせるが、舞は笑えない。
そんな中、顧問が「声がかすれてるなら、それを逆手に取って新しい表現を作りなさい」と提案する。「声が枯れている状態を活かして感情を爆発させるのよ!」と。最初は戸惑った舞だが、「この声だからこそ伝えられるものがあるかもしれない」と前向きに取り組むことに。花も「じゃあ私が特訓相手になるね!」と協力を申し出る。
転:
舞は、かすれた声を活かして独自の演技スタイルを模索し始める。低くて枯れた声で感情を込めてセリフを言う練習を続けるが、最初は「なんか、ホラーっぽくない?」と花が言ってしまい、二人で大爆笑。しかし、次第に舞の声には一種の迫力が生まれ、独特な魅力が出てくる。
部員たちも最初は笑っていたが、徐々にその新しい表現に感動し始める。低く枯れた声でも、しっかりと感情が伝わり、舞の存在感がさらに際立つようになる。花も「ほんま、なんか凄みが増してる!」と感心し、舞は少しずつ自信を取り戻していく。
結:
そして迎えた大会当日。舞は、かすれた低い声を最大限に活かし、全身全霊で演技をする。彼女の声が普段のような美しさではなくとも、そこには魂が込められていた。会場中がその独特な声に引き込まれ、観客は舞の感情を肌で感じる。
最後のシーン、舞は声を振り絞り、かすれた声で「愛してる」と叫ぶ。舞台裏で見ていた花が思わず涙を流しながら、「舞、やっぱすごいな」と呟く。観客も感動し、会場は拍手の嵐。
舞台が終わった後、部員たちは「新しい悪役女優の誕生や!」と冗談を言いながらも、舞の努力を讃える。舞自身も「声がどうであれ、全力でやり切ったことが大事やな」と満足げに笑い、みんなで舞台の成功を喜び合う。
「始まりはいつも」
「ねぇ、あの子、なんであんなに一人なん?」
教室の窓際に座っている彼女は、どこか孤立して見える。昼休み、友達と話しながら、私はその子のことが気になっていた。みんなでワイワイしているのに、彼女はいつも一人、何かを考えているように窓の外を見つめている。
「気にしなくていいんちゃう?あの子、そういうの好きなんやろ。」
友達の言葉に私は一瞬納得しかけたけど、どこか引っかかるものがあった。高校生活、誰とでも仲良くなれると思ってたけど、実際はそう簡単じゃない。人にはそれぞれ距離があって、無理に踏み込むことは逆効果になることもある。でも、彼女を見ていると、なんとなく「私にはできるんじゃないか」って気がした。
ある日、放課後の教室でたまたま彼女と二人きりになった。ふだんなら無言で通り過ぎるだけかもしれない。でも、その日は違った。
「なぁ、いつも何見てんの?」
気がつけば、声をかけていた。驚いた顔をしてこちらを見る彼女の表情は、一瞬戸惑っていたけど、すぐに微笑んだ。
「空が好きなんだよ。雲の形とか、光の加減とか…。」
彼女の声は思ったよりも柔らかかった。そこから、私たちの小さな会話が始まった。雲の話、空の話、好きなものの話。彼女の世界は、思っていたよりも広くて、そして深かった。
それから、私たちは少しずつ話すようになった。でも、彼女が他の友達とすぐに打ち解けるわけではなく、相変わらず一人でいることが多かった。それでも、私たちの間には少しずつ信頼が育っていくのが感じられた。
「なんであんな一人なん?」という最初の疑問は、いつの間にか「彼女にとって大事なものは何だろう?」に変わっていた。
ある日、彼女がポツリとこう言った。
「私、別にみんなに嫌われてるわけじゃない。ただ、自分が他の人と違うって分かってるだけ。無理して馴染もうとするより、自分のペースでいたいんだ。」
その言葉を聞いて、私は少しだけ彼女の気持ちがわかった気がした。無理に「普通」になろうとする必要なんてない。大事なのは、自分らしくいることだって、彼女は教えてくれた。
そして、気づいた。私が彼女に声をかけたあの瞬間が、私たちの関係の「始まり」だったんだって。何も特別なことはしなくても、ただ一歩踏み出すことで新しい関係が生まれる。それは、意外な形で自分自身にも影響を与えてくれる。
それから、彼女は少しずつ私の友達とも話すようになり、私たちのグループに自然と溶け込んでいった。でも、彼女が一人で空を見上げる時間は変わらない。それが彼女らしさであり、彼女の強さなんだ。
「始まりはいつも、気づかないところから始まるんやな。」
窓の外には、彼女が見つめていた空が広がっていた。夕焼けのオレンジが、私たちの関係の新たなページを静かに照らしていた。
「遠くにいても」
高校二年生の蒼(あおい)と悠真(ゆうま)は幼稚園からの幼馴染。どんな時も一緒にいて、苦しいことも楽しいことも共有してきた。お互いがいるのが当たり前の存在。しかし、高校に進学してから二人の関係に少しずつ距離が生まれ始める。蒼は陸上部で全国大会を目指し、悠真はバンド活動に夢中。二人はそれぞれの夢に向かって走り出すが、次第にすれ違い、話すことも少なくなっていく。
蒼はある日、練習中にケガをしてしまう。夢の全国大会が危うくなり、焦りや不安で心がいっぱいになる。しかし、その時一番頼りたい悠真とはほとんど連絡を取らなくなっていた。自分の弱さを見せたくない蒼は、ますます心を閉ざしてしまう。
一方、悠真はバンドのメンバーとの関係が上手くいかず、悩んでいた。バンドの夢を追う中で、仲間との衝突や音楽の方向性に迷いが生じていたが、蒼とは最近話す機会がなく、自分の悩みを相談できる相手もいないと感じていた。
そんな中、高校最後の文化祭が近づく。悠真のバンドがメインイベントとして出演することが決まったが、緊張と不安で思うように演奏ができない。蒼も文化祭での陸上部のパフォーマンスを控えていたが、ケガの影響で出場できるかどうか分からない状況だった。
文化祭当日、蒼は悩んだ末に悠真のバンド演奏を見に行くことを決心する。演奏中の悠真を見て、彼がどれだけ本気で音楽に向き合っているのかを初めて実感する。そして、悠真もまた、客席に蒼がいることに気づき、彼の存在が自分にとってどれほど大きかったのかを再認識する。
演奏後、二人はようやく言葉を交わす。これまでのすれ違いや、お互いに支え合えなかったことへの後悔を伝え合いながら、それでも友情が続いていることを確かめ合う。「夢に向かう中で、すれ違うこともあるけど、それでも友達であることは変わらない」。二人の友情がさらに深まる瞬間、読者に感動を与えるクライマックスとなる。
最後には、蒼がケガを乗り越えて陸上部の大会に出場し、悠真が音楽の夢を追い続ける姿が描かれ、二人はそれぞれの道を進むが、遠くにいても友情が続いていることが暗示されて物語は終わる。