「始まりはいつも」
「ねぇ、あの子、なんであんなに一人なん?」
教室の窓際に座っている彼女は、どこか孤立して見える。昼休み、友達と話しながら、私はその子のことが気になっていた。みんなでワイワイしているのに、彼女はいつも一人、何かを考えているように窓の外を見つめている。
「気にしなくていいんちゃう?あの子、そういうの好きなんやろ。」
友達の言葉に私は一瞬納得しかけたけど、どこか引っかかるものがあった。高校生活、誰とでも仲良くなれると思ってたけど、実際はそう簡単じゃない。人にはそれぞれ距離があって、無理に踏み込むことは逆効果になることもある。でも、彼女を見ていると、なんとなく「私にはできるんじゃないか」って気がした。
ある日、放課後の教室でたまたま彼女と二人きりになった。ふだんなら無言で通り過ぎるだけかもしれない。でも、その日は違った。
「なぁ、いつも何見てんの?」
気がつけば、声をかけていた。驚いた顔をしてこちらを見る彼女の表情は、一瞬戸惑っていたけど、すぐに微笑んだ。
「空が好きなんだよ。雲の形とか、光の加減とか…。」
彼女の声は思ったよりも柔らかかった。そこから、私たちの小さな会話が始まった。雲の話、空の話、好きなものの話。彼女の世界は、思っていたよりも広くて、そして深かった。
それから、私たちは少しずつ話すようになった。でも、彼女が他の友達とすぐに打ち解けるわけではなく、相変わらず一人でいることが多かった。それでも、私たちの間には少しずつ信頼が育っていくのが感じられた。
「なんであんな一人なん?」という最初の疑問は、いつの間にか「彼女にとって大事なものは何だろう?」に変わっていた。
ある日、彼女がポツリとこう言った。
「私、別にみんなに嫌われてるわけじゃない。ただ、自分が他の人と違うって分かってるだけ。無理して馴染もうとするより、自分のペースでいたいんだ。」
その言葉を聞いて、私は少しだけ彼女の気持ちがわかった気がした。無理に「普通」になろうとする必要なんてない。大事なのは、自分らしくいることだって、彼女は教えてくれた。
そして、気づいた。私が彼女に声をかけたあの瞬間が、私たちの関係の「始まり」だったんだって。何も特別なことはしなくても、ただ一歩踏み出すことで新しい関係が生まれる。それは、意外な形で自分自身にも影響を与えてくれる。
それから、彼女は少しずつ私の友達とも話すようになり、私たちのグループに自然と溶け込んでいった。でも、彼女が一人で空を見上げる時間は変わらない。それが彼女らしさであり、彼女の強さなんだ。
「始まりはいつも、気づかないところから始まるんやな。」
窓の外には、彼女が見つめていた空が広がっていた。夕焼けのオレンジが、私たちの関係の新たなページを静かに照らしていた。
10/20/2024, 12:24:50 PM