「放課後って不自由だよね」
君は言う。
「なんでさ、放課後はよっぽど自由だ」
僕が言う。
「いーや?放課後はね、放課の後だ。つまりは、決まった時間に行われる授業が終わったあとの時間だ。」
「うん」
「と、いうことはだね。放課後というのは椅子に時間という縄で縛り付けられ、新たな知識を教科書という槌で押し込まれる忌々しい授業の副産物でしかないんだよ。」
彼女は授業が嫌いらしかった。
「君の私怨は置いといて、言いたいことはわかったよ」
「でも僕はやっぱ自由だと思うけどな授業もないし、君と屋上で夕日を眺める時間が不自由なわけないよ」
「そうかい。」
彼女は少し顔を曇らせて言った。
数年後、大学生、会社員になって思ったのは、やっぱり放課後は自由だったって事だ。大学生、大学が終わっても学業から別の生活へ戻るだけ。果てしない自由の中に生きる事の不自由さを感じた。会社員、業務を終え、帰路に着く。業務の時間と業務のための時間。働くために寝て起きて食べる。自由とはかけ離れている。大学の授業後、会社の業務後、どれも放課後とは違っていた。ああ、やっぱ放課後は自由だったよ。君はどう思う?そっと問いかけた。
大学進学後ぱったりと連絡が途絶え、大学を辞めたかと思ったら急に海外に渡航し、一通の手紙を寄越した君。なあ、ここは自由だよ。短い文と共に1枚の写真が送られてきた。数日後、二度と手紙が届くことはなかった。まだ、放課後にいる君の事をたまに思い出す。そんな時だけ僕は、少なくとも僕の思考は少しだけ自由なのかもしれない。
#放課後
一束の時間が流れてしまう
指4本分、ほんの一瞬
なにができるの?100年10年
たった1年たった1日
非常に短いほんの一瞬
それよりかは余裕があるかも
1時間1分1秒それくらい
1秒以上4秒以下
それだけの時間で君は何をする
世界を救う?ご冗談を
思うに全く、どうにもならない
何かを成すには短い時間だ
けれどもだ、失うには十分だ
命、友人、未来、希望
4秒もかからずそっと消えてゆく
あの日の夢も貴方も僕も
ああ、つかの間を祝福したまへ
ああ、つかの間に出会いと別れを
#つかの間に
早めの秋が空から降ってきた
力を込めると目の前で砕けた
秋が手の中で解れる音がする
解れた秋は手のひらにこびり付く
どうしてか、心地よさまで感じた
#力を込めると
夜空を見上げる
指先をゆっくりと空に添わせる
届きそうで届かない距離だ
思い切ってぐぐっと手を伸ばす
もう少しで届きそう
指先が、星に触れた
触れた星はいっそう強く輝いて
綺麗な音を奏でる
星と星を繋ぐ
空に大きなカニさんが浮かんだ
カニさんは歌った
色んな動物、物が空に浮かんだ
私は指揮者みたいだった
いつかきっとー
#星座
大学2年生、成人を迎えた。
成人式、かつて慣れ親しんだ見慣れない土地にかつて顔を合わせた見知らぬ顔が並ぶ。寂寥は空間で、空気は懐古に満ちる。
「なー、わいわい、覚えとっか?」
「忘れるわけないさあ!○○だっぺ?」緊張と安堵が幾度と無く繰り返される亜空間。極限までに煮詰められた非日常の中に見える懐かしさがどこか擽ったい。
式は無難に進み、やがて終わる。かつて仰いだ師は最早一介の大人へと変わっており、自分も大人になったのだなと未熟ながらに思う。20と言う月日で初耳する公僕の祝辞を受け止め、咀嚼し、やはり飲みきれず会場に吐いて捨ててしまう。そんなこんなで式は終わる。
「なあ、みんな2次会いくさ?」
誰かが問う。
「なんか、○○さんが幹事しでくれるってさ」
誰かが返す。
成り行きで調子よく話は進み2次会の話が纏まってゆく。また、誰かが言う。
「2次会までに時間があるけ、小学校見に行からん?」
「おうよ、行こや」
二つ返事で何人かが小学校に足を運んだ。無論私もその1人なのだが。学校の様子はすっかり変わっており、古ぼけた校舎の外壁は塗り直され見慣れぬ色に、知らない建物が2つほど増えており、そこに建っているという事実からそれがかつて通っていた小学校だと断定せざる負えないという様子だった。
「あー、すっかりかわっちまってえ」
「わがめー、なー、あへじかしじあ、まだ授業中だべ」
「わー、めやぐね」
はしゃぐ成人の姿がそこにあった。この小学校には最早なんの意味も無い。かつて通った小学校に、かつて通った人が、かつて通った人と集まる。その行為に意味があるのだろう。どことなく懐かしくあった。校庭に目をやる。かつての滑り台、ジャングルジム、鉄棒、雲梯とひとつも残っていない。でも、そこで今の子供たちが元気にボールを追いかけている。ああ、君たちが走っている地面の遥か下に、かつての遊具たちはひっそりと埋まっているんだろう。
#ジャングルジム