藁と自戒

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「放課後って不自由だよね」
君は言う。
「なんでさ、放課後はよっぽど自由だ」
僕が言う。
「いーや?放課後はね、放課の後だ。つまりは、決まった時間に行われる授業が終わったあとの時間だ。」
「うん」
「と、いうことはだね。放課後というのは椅子に時間という縄で縛り付けられ、新たな知識を教科書という槌で押し込まれる忌々しい授業の副産物でしかないんだよ。」
彼女は授業が嫌いらしかった。
「君の私怨は置いといて、言いたいことはわかったよ」
「でも僕はやっぱ自由だと思うけどな授業もないし、君と屋上で夕日を眺める時間が不自由なわけないよ」
「そうかい。」
彼女は少し顔を曇らせて言った。

数年後、大学生、会社員になって思ったのは、やっぱり放課後は自由だったって事だ。大学生、大学が終わっても学業から別の生活へ戻るだけ。果てしない自由の中に生きる事の不自由さを感じた。会社員、業務を終え、帰路に着く。業務の時間と業務のための時間。働くために寝て起きて食べる。自由とはかけ離れている。大学の授業後、会社の業務後、どれも放課後とは違っていた。ああ、やっぱ放課後は自由だったよ。君はどう思う?そっと問いかけた。

大学進学後ぱったりと連絡が途絶え、大学を辞めたかと思ったら急に海外に渡航し、一通の手紙を寄越した君。なあ、ここは自由だよ。短い文と共に1枚の写真が送られてきた。数日後、二度と手紙が届くことはなかった。まだ、放課後にいる君の事をたまに思い出す。そんな時だけ僕は、少なくとも僕の思考は少しだけ自由なのかもしれない。

#放課後

10/12/2023, 10:55:16 AM