ごめんねと貴女が言う。
「✕✕✕✕✕✕✕ごめんね」と。
僕は謝って欲しくなかった。
これからを話したかったのに、
貴女の中にこれからは存在しないらしい。
さようならと言えばいいのか。
でも離れられるわけもなく、
呪縛というかなんと言うか。
どうすればいいかわからなかった。
とくに責め立てる気も起きやしない。
ただひたすらに時が経つのを待った。
長い、長い時間が過ぎた。
忘れた頃にふと、あの日を思い出す。
小さな田舎の一軒家。
泣きじゃくる貴女。
鮮血に塗れた浴場。
「産んでしまってごめんね」という言葉。
#ごめんね
半袖を作る工程、
長袖の服を買う。
袖を好みの長さで引きちぎる。
夏を迎える為の通過儀礼。
お気に入りのあの服も、
一緒に夏を迎える為に、
全部全部引きちぎる。
いやでも冬はどうすんだ。
捨てられた袖を集めて、
大きなお墓を建てました。
お墓に袖を埋めようか、
あら?火葬が先かしら。
袖をお墓に埋めるため、
みんなまとめて燃やします。
ぼおっと大きな火が登り、
全部全部燃えちゃった。
あれ?お墓は要らなくない?
大きなお墓を残してさ、
あたし一人が残ってる。
半袖小僧が残ってる。
夏も終わって肌寒い。
寒がり小僧が残ってる。
うーん、お墓をどうしましょ。
寒いのいったいどうしましょ。
少し悩んで閃いた。
少年は墓に頭を打ち付けて死んだ。
#半袖
今年は、例年に比べて暖かな気候だったためか桜の開花がとても、とっても早かった。桜前線はみるみる北上して、卒業式に満開、入学式にはもう散ってしまうという、風情もくそも無い様子だ。そもそも卒業式、入学式ともに満開であって欲しという、
私の小さなエゴが悪さをしているのだが。
とにかく、今年の春は少し違った。
桜の花びらが舞い散る、
満開から少しすぎた頃の桜の木を
僕はぼんやりとながめていた。
「綺麗ですねえ」
後ろから春のような声がした。
このご時世に世間話を繰り広げるために他人に声をかける人は居ない。無視をしよう。そう思ったとき、
「今年は桜が咲くのが早くって」
「ええ、そうですね」
私の忍耐に問題があるのか、目の前に差し出された話題が魅力的だったのか、つい返事を返してしまう。
「あれ、あなたは私が」
「はい。見えますよ」
「みなさんは、そうではないみたいですが。今年は桜が咲くのが早くて残念だこのままでは入学式のころには散ってしまう。」
「入学式?」
「入学式って、ご存知ないですか。ほら、小学校、中学校とかの」
「ああ、入学式といえば桜という時代ではなかったですから」
「そうですか」
「はい」
「でも、こんなに早く桜が散ってしまうのは私としても残念ですねえ。こんなにも綺麗なのに」
「また、みれますよ」
「まあ、そうなんですけどねえ」
「よかったらご一緒に花見でもどうです?つまみでも買ってきますよ」
「あら、嬉しいお誘いですねえ。でも、」
突如風が吹き、桜は全て散ってしまった。
だが、私の中には今この瞬間、春が爛漫していた。
#春爛漫
誰よりもずっと素敵なあなたに、もっと生きていて欲しかった。
あなたはいつもどこか寂しそうだった。
こっちを一瞥してにこっと笑う姿はなによりも素敵だった。
ああ、どうしていなくなってしまったんだ。わたし
それでいいんだよと色んな人が言う。
焼き魚の定食、チキンラーメン、やす酒。
これは本当に肯定する言葉なのかな
酸いも甘いも経験して、
結局行き着く先は昔ながらのこの記憶。
肯定しているように見えて、
昔っからの呪いはなかなか解けないとも言える。
昔っからの記憶。
おふくろの味、カップヌードル。
お湯を注ぎ、3分待ち蓋を開ける。
たちまち顔を蒸気が覆い、
おいしい香りが鼻腔をくすぐる。
ひと口すすると今はもう居ない母の顔が見える。
そう、これでいいんだよ。
#それでいい