物語①(全7話)
お題:窓越しに見えるのは
フロントガラス越しの映画館
使い捨ての一度きりのフィルムの世界が広がる
BGMは自由です
チケット代はガソリンです
摩天楼から草原へ雪の降るまちへ
監督と観客を兼ねた私は
未知の物語を紡ぐために
一人だけの映画館へと
身体を滑り込ませる
映画の目的は
誰かに出会うためだ
透明な水
空で澄んで濾されて落ちる
透明な水
小さな虫が濾された水に溺れて消される
透明な水
死ぬ為に活かされた私と一緒。
お題 kiss
子供の頃、祖母の家に来ると
時間がゆっくり流れていた。
祖母の家は生活に必要な道具しかなかったから
子供心に興味をそそられる道具がなかっただけかもしれない。
家の中から何処までも続く刈り取られた田んぼを見ていた
空風の吹く冬、家の中は石油ストーブで暖かい
何も興味はそそられないけど
ふと外に出た瞬間
西から吹く風が私の頬にkissしてくれる
そのkissに驚いた私は家の中にまた戻る
君のkiss
大人になったら懐かしくなったよ
お題 千年先も
私は蒸留所の樽
中にはウイスキーが入っている。
この蒸留所が出来て数十年。
この樽は開けられたことがない。
この蒸留所の人間は羨望の眼差しで私を見る
何故ならこの蒸留所の最古参のウイスキーが入った樽だ
今後私を千年先いやそのずっと先も寝かし続けると言っていた。
人間とは馬鹿な奴で年季が入れば入るほどいい味が出ると思っているらしい。
「天使のわけまえ」といって、中身が減って、代わりに味の深みが増すというが
このままだとそのころには天使のわけまえとやらで私の腹の中にはカスしか残らないはずだ
がっかりさせてごめんよ人間。
だが、そんなこと人間だって流石にわかっているはず。
結局この私をどうするつもりなのか…
私の運命は千年先にしかわからない
私の運命が決まるその時まで
私に出来ることは寝ること
それまでゆっくりこの暗い倉庫で寝かせてもらおう。
お題 ブランコ
今俺はブランコを漕ぎ出そうとしている。
後ろには目以外黒い服で覆われた刑務官。
板に乗れと促する
無機質な黒い空間で、一歩先は何処までも続く深い穴、はるか上まで続いている2本のロープとそれに繋がっている木の板。
ロープと腕に手錠を繋がれ自由は無い。
ロープを握る手は汗ばみ、膝は震え、喉は乾き、目が回りそうだ。
そう、俺はいま死刑が執行されようとしている囚人。
漕ぎ出せば死ぬまで漕ぎ続けなければならない
この国独特の新しい処刑方法
俺がこの処刑方法の第一号になるそうだ
よって漕ぎ出すことによってどう死ぬのか何にも情報がない。
ああ覚悟が決まらない。
乗るタイミングは任されているが、一歩が踏み出せない
バンジージャンプみたいなものだろう。乗り出す覚悟が持てない。
何故なら乗ったら死だから
…永遠とも感じる時間が過ぎた
当然ながら精神のバランスは保てなくなる
発狂してしまう。
救われる道はこれしか無い
死ぬしか無いんだ
俺はブランコの板に足をかけた
…だが、板にかけた足はそのまますり抜け深い闇へ落ちていったのだ。
そこで俺は気を失った
…なんかの悪い夢だったんだろう
ふと、我に返って目を覚ます
…なんということだ
また、あのブランコの前にいるじゃ無いか!
…あぁ、なんという絶望感