この世には
簡単に話せることと
そうでないことがある。
そうでないものは心の内に秘めて
鎖と鍵をかけている。
その気持ちを伝えようと試みると
鎖が心を締め付けてきつく痛い。
僕は"まだ言うべきでない"からきつく痛むのかと思ってた。
機会を伺えば伺う程
鎖と鍵が厳重に頑丈になっていくのを感じる。
本音を話せば涙が出てくる。
そこそこのプライドはある僕。
人前では上手く泣けないし
泣くのは弱い自分を見せるようで嫌だった。
高校入学
高校生活では絶対に人前では泣かない
強くなると決めた。
それは1ヶ月で終わりを迎えた。
僕は上手く話せない。
上手く伝えられない。
伝えられなければ
僕が苦しいことを抜け出す道はない。
閉ざされた暗い塀の中
僕の心を強くしここから抜け出す術を
誰かに教えて欲しい。
僕の涙の理由。
となりの席
好きな子
気づいて欲しくて
金木犀の香りの柔軟剤で香水をつくった。
気づいて欲しくて
「初恋だと」
夏休みがあけた。
家族連れで賑わいを見せていた
街並みは早くも元へ戻った。
僕は人と関わりたくない。
普段は明るく接していたとしても
夏休み 一切 "他人"とは話さなかった。
遊びの誘いはきた。
でも断った。
猛暑の夏
蝉がうるさく夏を呼ぶ。
窓の外
僕の名前を呼ぶ… 声。
突然の君の訪問だった。
「夏休みくらい遊ぼう」
誘いだった。
「ねぇ。辛いよ…」
その一言
友達からだった。
もう夏休みも終わりに近づいている。
私は部活でほとんど潰れた高校2年の夏休みを巻き返そうと課題と遊びの真っ最中だった。
そんなヒグラシが鳴く頃
ピロン
友達からLI○Eが一通来ていた。
「ねぇ。もう辛いよ…」
いつも明るい友達から
急なネガティブだった。
今まで"辛い"なんて言ってるところも見た事がない。
焦った。
ピロン
また通知音。
「もう。○たい。ごめん。」
私はその言葉を見て
迷わず 電話をかけた
出てくれない。
友達の家はここから近かった。
全速力で走った。
友達の家のバルコニーに人影が見えた。
私は今出せるありったけの力と声を出して
友達の名を叫んだ。
振り向く彼女に訴えかけた。
「居なくならないでよ。私ってさ、自分勝手じゃん?こうやって あんたのこと 何も悩みも聞かないで止めてさ、そう思わない? いっぱいさ口喧嘩したじゃんでも、あんたいつも ごめんって先に文句も言わずにさ、そういうとこだよ!! ホントのさよならを言う前に私に文句とか悩みとか全部吐き出してからにしなよ!!」
お盆
亡くなった人間が家に帰ってくる。
僕の友達の颯が亡くなったのは3年前の夏だった。
中学2年生だった
「僕らは来年は受験の天王山 1年遊べないから今年の夏は思いっきり遊ぼう」という理由でほぼ毎日一緒に過ごした。
颯は楽しそうに笑っていた。
僕らが住んでいるところは自然が多く山と海どちも近かったのもあり自転車に乗って山と海を一日交代で堪能していた。
そんなことをしているからこんな事になってしまったと後悔している。
だんだん遊ぶことが無くなり家に帰ろうとしていると、颯が「肝試ししよ」と誘ってきた。僕はてっきり怖い話でもするのかと思っていたが、彼は「海へ行こう」と言う。
今日は風が強い。
海もいつもより荒れている。
堤防から見下ろす海は深い青色だった。
「ここから飛び降りるんだ」
耳を疑った。
「今日はやめとこうよ危ないぞこれ。」
僕が不安げに言うと
「今日暑いし、このぐらいの波ならここ浅瀬だし大丈夫。」といたずらに笑ったが、目の奥の光が消えていた。
今考えれば、彼は壊れてしまっていたのかもしれない。
僕はロープを体と柵に巻き付けてから海に入るのなら、、と誘いを受けた。
いつもこういう時は颯がジャンケンを挑んでくるのに、今回は違う。
「俺が先に行くから」
笑顔で飛んで行った。
そこから颯は帰ってこなかった。
体に巻き付けたロープを自ら解き
深い所まで沈んで行った。
なんで自ら 死ぬようなことをしたんだ、
しかも僕の目の前で。
そして今年のお盆
僕は寝ていた。
風鈴の優しく涼しい音色が広がり、それに合わせようともせずに鳴き続ける蝉。そよ風設定にした扇風機が春のような涼しく暖かい温度に部屋を演出して季節を錯覚させる。
鈴の音。
僕の周りを回っている。
気になる。
段々と意識が戻ってきて目を開く
そこに居たのは黒猫。
大きな鈴を首輪に付けている。
黒猫の所在が分かることは書いていなかった。
ここは自然が多く動物が道を歩いているのは普通だったし、家の中に入ってきちゃうことも少なくはない。
「どこから入ってきちゃったんだ?」
僕は答えるはずが無い黒猫に優しく問いかけ抱っこをした。
「えっ、玄関開いてたよ。」
懐かしい颯の聲だった。
録音かなんかだと思ったが、間違えなく黒猫から出ている声だった。
颯は猫になって帰ってきた。
??
意味がわからなかった。
コドモじみたファンタジー
「お盆中にやらないといけないことがあるんだ。手伝ってくれないか?」
夏バテで頭がバカになったんだと、もう一度寝ようとする僕に飛びかかり。無理やり現実を見せられた。
「早く!自転車まだあるよな?」と軽い体で飛ぶように走る猫。
まだ眠たい目を擦りながら曖昧に返事をする。
玄関を出ると黒猫は自転車のカゴに乗りドヤ顔で
「自転車に乗って行くぞ!」と言う。
自転車に乗って気がついたが、僕 颯(?)に足にされてないか?