きっと忘れない
日記
予防接種の副反応で熱が出た。お陰様でこのアプリのお題を1個逃した。
寒気と震えが止まらず、おかしいと思ったら体温計は39度を示していた。
「熱があるときに見る夢みたい」という感想だったり悪口だったりがあるが、まさにそんな夢を見ていた。
幼い頃発熱すると、やはり混沌とした夢を見た。
頭部が異様に大きい生物が10体ほど並び、こちらを向いていた。宇宙人のデフォルトのような見た目の彼らは、頭部の大きさをぐにょんぐにょんと不規則に変化させながらただこちらを見ていた。
夢の画面全体が中途半端な砂嵐のような色合いだった。
身も心も成長した今、夢の情報量は膨大なものとなっていた。全体を通して他人の会話を第三者視点で見ている状態だったが、その他人が数秒ごとにコロコロと変化する。眼鏡をかけた冴えない少年かと思いきや、優しそうなアラサーの女性になる。
会話の内容も一貫性がなく、口論かと思えば漫才のようになる。
自分の立場も、恋人から教師、客に変化する。
はっきりと覚えている内容は少ないが、出てきたキーワードや流れはふわっと覚えている。
忘れないうちにここに書いておこうと思う。
寿司、サーモン系。
事件、殺人系。
フクロウの耳襦袢。
ペン、キャップ付き。
殺人事件が起きてそれを探偵と解決する流れがあったような。探偵は中年。
書き留める間にもどんどん忘れていく。
きっと忘れないと思ったこともいつかは側頭葉を抜け出し、涙腺に入り込み涙か何かになって出ていくのだろう。
足音
家族4人暮らし。全員足音が違う。
パタパタパタ
これは母の足音。ゆったりとしているが、やるべき事をするために、効率良く動いている。
ノス ノス ノス
これは父の足音。重みがあり、優柔不断な行動が足音の間隔にあらわれる。
バタドテドス
これは妹の足音。全ての動作がエネルギッシュ。一足踏み出すのに魂を懸けている。
トストストス
これは自分の足音。静かに歩き、ヌルッと現れて驚かれる。耳が遠くなってきた父は私の足音を聞き取れない。
2階の部屋で寝ていると、夜中の1時ー2時頃に足音が聞こえる。大抵はトイレに向かう家族の足音。しかし誰の特徴にも当てはまらない足音が聞こえたことがあった。
ペスペスペス
母のようにゆったりしておらず、父のように重みはなく、妹のようなエネルギーもない。
足音は階段を上り、2階に辿り着く。家族なら自分の部屋のドアを開ける音がするはずだが、足音が止まったまま何も聞こえない。廊下で佇んでいるようだ。
早く眠ってしまいたいのに、目が冴えて聴覚が過敏になる。足音が再開する。
ペス ペ ス ペス ペス
近づいてくる。こっちに来るなと念じながら、目を固く閉じる。
ペ ス ペス
突然、足音が轟音に掻き消された。
ヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォン
ほぼ毎日出現する暴走族だった。
彼らが去った後、足音は聞こえなくなった。冷や汗でビショビショだったが、布団を出る勇気は無かったため、YouTubeでマツケンサンバⅡをリピート再生しながら眠りについた。
何だったのだろうか。マツケンサンバⅡは今でも大切な子守唄である。
終わらない夏
夏の終わりにはツクツクボウシが鳴く。
ツクツクボウシのBメロ
ひとりひとり異なって聴こえるらしい。
ツクツクボウシ、ツクツクボウシ、ツクツクボウシ、
この聴き馴染みのある音色のあと
ヴァリオース、ヴァリオース、ヴァリオース、ヂー
と聴こえる。
梶井基次郎は
スツトコチーヨ、スツトコチーヨ、スツトコチーヨ、ヂー
と聴こえたらしい。
ヴァリオース以外に聴こえたことなどないものだから、今年は先入観を捨ててBメロに耳を傾けたい。
しかしツクツクボウシは夏の終わりに鳴く蝉。今年の殺人的な暑さのなか、彼らはいつ夏が終わると判断してくれるのだろうか。
彼らの演奏は数ヶ月先かもしれぬ。
遠くの空へ
この手紙が貴方に届く確率はどれくらいなのでしょう。
お互いに姿形も分かりません。会うはずもない人生のはずでした。
ほど遠い空の下、小さな媒体を覗き込み、致死量ギリギリのブルーライトを浴びた今、我々は繋がりました。
不思議なご縁ですね。
ブルーライトに殺される前に、ひとつ頼まれてくれませんか。
頭痛腹痛吐き気目眩がやばいです。おそらく脱水症状です。一日500ml飲まない阿呆なので。
頑張って水分補給します。とにかく頑張ります。
ですので、この愚か者に「ガンバレ!」と念を送っていただけましたら幸いです。
空を介して必ずや受け取ります。
そして「アリガトウ!」をお返し致します。
皆さんも健康には十分にお気をつけて。
!マークじゃ足りない感情
日記
洞窟内にあるナントカ神社を訪れた。
磯の香りが髪にまとわりついていた。黒黒した岩を踏みしめるとピチと水音が響いた。
洞窟の奥に祠が見えた。少量の光が当たっていた。
祠の少し手前で財布に手を突っ込み、令和7年製造のペカペカ10円玉を握りしめた。
上から振りかぶるようにして賽銭箱に放った。肩から変な音が鳴った。
相場は下から(放る)だろう...と連れに言われた。
順路に沿うと、出口付近にクワズイモのような植物が岩の間から生えているのが見えた。丸みを帯びた葉は金色の光を浴びていた。外の世界から差し込む太陽が彼を生かしているらしい。
太陽の金色、葉の若緑色、岩の黒灰色のみで構成された空間は私に何らかの感情を抱かせた。
感動、畏怖、郷愁、
ChatGPTに全体重を預けているヒトが持つ語彙は雀の涙どころか目脂ほども無い。
しかしなにかおおきなかんじょうを持った気がする。
!マークでは足りないような。
参拝客は少なかったが、列が詰まることがないよう先を急いだ。
植物をこえたあたり、太陽の光を一身に受け、白くぼやける岩肌がサワサワと動いた。
瞬きの間に岩肌をなぞる者について理解した。
無数のフナムシだった。
ギャ
大きな感情が洞窟内に響き渡った。