【病室】
誰にも聴こえない声がきこえるらしい
誰にも見えないものが見えているらしい
真っ白い空間で完璧に管理され
他者と違うのだと強制的に自覚させられる
果たしてどちらが治療を受けているのか
皆自分勝手に僕が期待通りの言葉を行動を取るものだと
白い色が正だというくせに
その内に孕んだどす黒い色が口を動かして
好き勝手に部屋を汚い色で染めていく
そうやって押し込められるほどに
遠かった声も瞼の裏の色も存在感を増していく
人間となにかの狭間で呼吸が窮屈になっていく
僕が居なくなることが正しいのならそうしてしまおうか
毎日の診察でもう限界のはずなのに
耳元まで近づいた声が僕をどうしても引き留める
もしこの声に捕まったら終わりが来るのならどんなに幸せなのか
点滴で流し込まれる”正常な人”の思考回路が混ざりこんで
ここが現実なのか夢なのかもはや僕にはわからない
目前に迫っている綺麗な色がまだ生を歌うから
注ぎ込まれる偽物の栄養に抗って
真っ白い壁を汚い汚れがしみ込んだ壁を彩る
くぐもった思考回路でさえ救いが
どちらにあるのかは明白で
こんな囲まれた場所から抜け出すためきみの手を取った
2024-08-02
【明日、もし晴れたら】
ぽつりぽつりと落ちる音
裏腹に浮かび上がる心の音
誰に伝えるでもなかった言葉を
自分だけでも忘れないように呟いたら
雨粒に混ざって地面に色を付ける
雨の日だけはずっと変わらない
まるであの時をずっと取っておいてくれるきみのように
でも変わらないものなんてないことも分かっていて
僕もそれになってしまうのがどうしようもなく怖いから
だから明日、もし晴れたらきみに逢いにいこう
どんなに景色が変わっても
僕はあの時と変わらない気持ちでいると伝えに
2024-08-01
【だから、一人でいたい】
言葉にしなければ
誰かと出会わなければ
その内包した感情を知らずに済んだのに
震えた空気の振動で相手の中身が伝わってしまう
こんなにも簡単なことなのに
みんな素知らぬ顔をして毒を吐く
これが見えるのは
これを吸い込んでしまうのは
僕だけなのだろうか
僕も相手に毒を吐きかけてしまっているのだろうか
それならいっそ誰にも会わなければ良いのだ
何と最適な答えなのだろう
僕は深い深い海の底
ヒカリさえ届かない場所に自分を隠した
もう誰にも会わないように
何年の月日が経ったころか
どこか遠くで物音がする
僕を知るものはもう居ないはず
偶々、偶然迷い込んでしまったのだろう
だけどここは深い深い海の底
果たしてあの場所に帰れるのだろうか
ほんの少しの興味が
固く閉ざした扉の向こうに漏れ出てしまった
だからバレてしまったんだ
見つけた少女は目が合うと首をかしげて歌い始める
僕が隠してた僕のことを
まるで鏡に映したように
我に返って咄嗟に耳を隠した
僕の知らないような僕を歌うあの少女の
本当の音を知ってしまいたくなかった
そんな心配をよそに歌は続く
否が応でも聞こえてしまう届いてしまう
それなのにウソが1つも混ざっていない
なんて綺麗な音色なんだろう
僕は初めてきみの姿を捉えた
初めて自分の足で立ったような感覚がした
今までうまく息が吸えていなかったのにも気が付いてしまった
それくらいもう限界だったのだ
人に寄りかかることの罪がどれだけ重いか
潰される側の気持ちは身に余るほど知っているというのに
本当の言葉しか紡がないその歌声に頼って息を吸う
こんなにも相手の首を絞める事があるのだろうか
だから、一人でいたい。
あの時にその覚悟で閉じこもったのに
ああ、どうか歌っている間だけは
僕のそばに居て欲しいなんて
最低だ
2024-07-31
【澄んだ瞳】
吸って吐いて淀んだ空気
他人の重りでがんじがらめに固められて
これまた誰かの濁った海に放られた
呼吸の仕方も誰からも教わっていないから
受け入れてただユメを見た
僕と同じように放られた瓦礫にぶつかって傷が出来る
同じところばかりが抉られて
多分大事にすべきところも当たり前の様に
露出されてまた傷が付く
その痛みさえ知らずに漂っていた
それほどになにも持っていなかった
今日も誰かが汚い言葉を吐き出した
その影が向かって言った
ガラクタの何かは
こんな海の中で隠せないほどの澄んだ瞳を持っていた
2024-07-30
【嵐が来ようとも】
突然の雨に降られて世界は色を変えた
去っていく足音が小走りに跳ねる
雨音でダンスのお誘いしてくる見知らぬ雨傘
空が光って屋外ダンスフロアの出来上がり
地面に映る宇宙をステージに小躍りしても誰も知らない
嵐が来ようとも僕を見つけるのはきみしかいないから
2024-07-29