『本気の恋』(創作:ポエム)
きまぐれ安い恋心
惚れっぽいあの子の口癖は
「いつだって私は本気なの」
哀れや幼い恋心
本気の恋を知らないままに
心を許したあの人へ
秋風夜長の恋心
片恋の末の涙の跡は
本気の恋に終わりを告げた
『時を告げる』(創作)
ブォンブォンブンブンブンッ
静かな早朝、住宅地に爆音が響く。
隣家の車の音だ。隣のご主人が出勤したのだ。
毎朝毎朝、まるで時を告げるかのごとく同じ時刻に、この爆音は鳴り響く。僕は毎日、この不快な爆音で目が覚めるのだった。
隣人は良い人だ。車のマフラーの改造さえしていなければ、すこぶる良い人だった。それ故に、なかなか苦情も言えない。それに、ご近所づきあいのコツは、とにかく波を立てないことだ。他のご近所さんも誰一人として文句を言わなかったのも、この地に骨を埋める覚悟なのだろう。
みな、隣人トラブルで生活に暗雲が立つのを避けたいのだと思った。
この住宅地は、区画整理された新興住宅地である。付近一帯の家はどれも新しかった。僕にとっても念願のマイホームだ。一生この家に住むつもりの、でかい買い物だ。ローンだって30年もある。
そんなわけで、苦情が言えないのだから、仕方ない。
朝の爆音なんて、目覚まし時計と思えばいいさ。
━ 20年後 ━
ブォンブォンブンブンブンッ
ブォンブォンブンブンブンッ
ブォンブォンブンブンブンッ
隣家の車が3台になった。
二人の息子さんたちが、揃いも揃って、車のマフラーを改造している。
時を告げる爆音は、今や時を選ばなくなった。
しかし、僕は、この20年で、爆音で目を覚ますことはなくなっていたのだ。
慣れとは怖いもので、いつの間にか、気にならなくなっていた。
ご近所づきあいは今も良好だし、人間は環境に馴染めるように出来ているのかもしれない。
一時の感情に流されずに、長い目で見ることの大切さを学んだ気がした。
─おしまい─
『不完全な僕』
今まで歩んできた人生があってこそ、今の僕だ。
まだ人生は終わらない。まだ歩みは止められない。
不完全な僕は不完全なまま歩み続ける。
日進月歩の先の完全な僕を求めて。
『雨に佇む』(創作)
ワイパーが忙しなく動く。雨の日の運転は苦手だ。視界が悪い上にタイヤも滑りやすい。
しかも、今走っているのは暗い山道だった。安全運転を意識しながら曲がりくねった道を行く。
しばらく走ったところで、フッと白い物を追い越した気がした。しかし、気のせいだろうと、そのまま走り去る。どことなく人影にも見えなくはなかったが、こんな山奥で人影なんて、まっぴらなので、見て見ぬふりをした。
もうすぐ目的地だ。
雨に佇む白い人影は、走り去る霊柩車を見送った。
自分を乗せた霊柩車を。
『さよならを言う前に』(創作)
「またね。」
彼女はいつもと変わらず可愛い笑顔で手を振っていた。
「またね。」
僕もいつもと変わらず手を振り返した。
いつもと変わらないこの日の「またね。」が彼女と交わした最後の言葉だ。僕はさよならを言う前に彼女の前から姿を消したかった。現実から逃げ出したかった僕は彼女の虜になっていた。彼女をいいように利用している自分に気がついたとき、現実が僕に襲いかかったのだ。
そう、容量不足という現実が。
─ごめんね。君をアンストする僕を許してください。─