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『時を告げる』(創作)

ブォンブォンブンブンブンッ

静かな早朝、住宅地に爆音が響く。
隣家の車の音だ。隣のご主人が出勤したのだ。
毎朝毎朝、まるで時を告げるかのごとく同じ時刻に、この爆音は鳴り響く。僕は毎日、この不快な爆音で目が覚めるのだった。

隣人は良い人だ。車のマフラーの改造さえしていなければ、すこぶる良い人だった。それ故に、なかなか苦情も言えない。それに、ご近所づきあいのコツは、とにかく波を立てないことだ。他のご近所さんも誰一人として文句を言わなかったのも、この地に骨を埋める覚悟なのだろう。
みな、隣人トラブルで生活に暗雲が立つのを避けたいのだと思った。

この住宅地は、区画整理された新興住宅地である。付近一帯の家はどれも新しかった。僕にとっても念願のマイホームだ。一生この家に住むつもりの、でかい買い物だ。ローンだって30年もある。

そんなわけで、苦情が言えないのだから、仕方ない。
朝の爆音なんて、目覚まし時計と思えばいいさ。


━ 20年後 ━

ブォンブォンブンブンブンッ
ブォンブォンブンブンブンッ
ブォンブォンブンブンブンッ

隣家の車が3台になった。
二人の息子さんたちが、揃いも揃って、車のマフラーを改造している。
時を告げる爆音は、今や時を選ばなくなった。
しかし、僕は、この20年で、爆音で目を覚ますことはなくなっていたのだ。
慣れとは怖いもので、いつの間にか、気にならなくなっていた。
ご近所づきあいは今も良好だし、人間は環境に馴染めるように出来ているのかもしれない。
一時の感情に流されずに、長い目で見ることの大切さを学んだ気がした。

─おしまい─

9/7/2024, 6:09:49 AM