rororu

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2/19/2024, 11:30:20 AM

『枯葉』(創作)

「枯葉だなんて、ずいぶん季節はずれね。」
もう二月なのに、と、ふてくされたように言うと、彼女は、ぼくに共感を求める視線を寄越した。

ぼくたちは、あるアプリを使っていたことをキッカケに仲良くなった。アプリ友達だ。アプリは単純で、毎日文字を書く習慣をつけるためのアプリだ。ご親切に毎日お題を出してくれるのだが、今日は、そのお題が「枯葉」だったのだ。

「枯葉のイメージって、枯葉の下の虫の冬眠とか、かな。」
ぼくは思ったままを彼女に伝えた。
「え、、、なんか、きも。虫はやめてよ。虫はむり。」
思いの外ドン引きされて軽く傷付きつつ、彼女が何を書くつもりなのか聞いた。
すると彼女は「枯葉、見に行かない?」と誘ってきた。
「実際に枯葉を見たら、イメージ湧きそうだし、ね、行こうよ!」と、ぼくの手を引いて歩き出した。

ところが、枯葉はなかなか見当たらなかった。
それもそのはずだ。温かい日が続いて桜が咲いているくらいなのだから。
「桜見て、帰ろうか?」と、しょぼくれた彼女を励まそうとぼくは提案した。

「うん、いいね。」と言った笑顔の彼女は可愛くて、ドキッとした。

ぼくの春も近いといいな。

2/18/2024, 10:20:46 AM

『今日にさよなら』

数日前から、お花のリースを折り紙で作り始めました。
動画投稿サイトにあった、素敵なリースです。
ただし、280個の花弁を折らなければなりません。
美しい作品は、楽ではなく根気と時間がかかるのだと改めて思い知りました。
毎日、空き時間にコツコツ折って、本日、やっと280個のパーツが折り終わりました。あとは組み立てるだけです。
明日には完成することでしょう。
難所を越えた達成感と、完成が見えてきた高揚感を抱きながら、素晴らしい今日にさよなら、そして、ありがとうとお疲れ様です。

2/17/2024, 10:57:55 AM

『お気に入り』(創作)

わたしは執着しない。
お気に入りの物はたくさんある。でも、たくさんの中の1つに過ぎない。
わたしにとって、家族も、例外ではない。
お気に入りだったけど、特別ではなかった。


そう思うことで、生きていられる。
そう思わないと、失ったものの重みに押し潰されてしまいそうだから、絶望を忘れるために、お気に入りを増やす。

2/16/2024, 10:33:32 AM

『誰よりも』(創作)

テレビが着いていた。
暗い部屋に、テレビのチカチカした光が動いている。
「消し忘れたかな。」
照明のスイッチを押す。暗い部屋が明るくなり、生活感のある見慣れた部屋が現れた。心なしかホッとした感覚を持つ。誰もいないのに、部屋に向かって「ただいま。」と思うのも、いつものことだ。こんな狭くて寂しい部屋でも、俺にとっては唯一の帰る場所なのだ。

テレビはまだ着いていた。
画面では、きぐるみの動物たちと、歌のお姉さんと歌のお兄さんと体操のお姉さんと体操のお兄さんが、とびきりの笑顔で歌い踊っていた。

そうだ、朝も見た番組だ。

俺は誰よりも、この番組が好きだ。
大人のしがらみのない明るく元気で素直な世界観に心洗われるようで、見ていると泣けてしまうほどに、この番組が好きなのだ。誰よりも疲れた俺に、お兄さんたちのとびきりの笑顔は元気をくれた。
明日も頑張れそうだ。

2/15/2024, 10:59:56 AM

『10年後の私から届いた手紙』(半分創作)

【拝啓
去年より二週間も早く春一番が吹いた二月の暖かな日、あなたは前々から予定に入れていた朗読の講座に参加し、まだその余韻に浸っているころでしょう。
熱しやすく冷めやすいあなたにとって、朗読がどれだけ続くのか、さぞ自信のないことですが、これだけは伝えておきます。
十年後も、あなたは朗読を続けています。
発声練習と体力づくりは、日々の積み重ねですから、何卒サボらないようにお願いします。
あと、その頃に録音した朗読は、消さないでください。聞きたくなったときに、無くて困りました。
朗読、楽しんでますのでご安心を。
                  敬具
          十年後のあなたより】

十年後のわたしから届いた手紙には、大して面白いことは書かれていなかったから、丸めて捨てた。
十年後も、わたしは面白味のない人間のままらしい。

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