rororu

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2/14/2024, 2:27:44 PM

『バレンタイン』(創作)

「何時に帰るの?」
家から出ようとする息子に声を掛けた。
「時間なんて数えてない。」と、靴を履きながら応える息子に、「時間って数えるものだった?」と問い直したところで、わたしは、しまったと思った。案の定、息子は「っるせーな。どうでもいいだろ。」と、毒づいてドアから出て行ってしまった。

しかし、彼はすぐに帰宅した。
「おかえり。早かったね。」と出迎えると、彼は手に紙袋を提げていた。可愛いらしいピンクの紙袋で、彼の風貌には似つかわしくなく、すぐ目に入った。
わたしの目線を察した息子は、「っるせーな。」と言いたそうにそっぽを向く。

今日はバレンタインだ。
あれは、きっと、チョコレートなのだろう。
わたしは、親として、なんとなく嬉しくなって、“バレンタインって素敵なイベントね”と、心の中でつぶやいた。

2/13/2024, 10:21:56 AM

『待ってて』

うちの猫は可愛い。
原材料が「可愛い」で出来ている。
毎日、わたしが帰るのを待っててくれる。

早く帰りたい。

2/12/2024, 10:22:46 AM

『伝えたい』(創作)

─ 文字を入れてください ─
もうどれくらいこの画面とにらめっこしていることだろう。

生命保険の受取人にメッセージが遺せるサービスを知ったのは、つい先程のことだ。生保レディから勧められるままに、メッセージを遺すことになったのだが、僕が死んでから届くメッセージなんて、なんだか想像がつかない。

お涙頂戴なメッセージは柄でもないし、感謝の想いを綴るのも照れくさい。倦むに倦んで、フッと、「そもそも、まだ死んでもいないし元気なのだから、遺書みたいだな」と思ったところで急に気が滅入ってきた。

僕は、生保レディにキャンセルを申し出た。

伝えたいことは生きてるうちに伝えよう。

2/12/2024, 9:24:41 AM

『この場所で』(創作)

「夜はまだ寒いな。」
ネックウォーマーを引き上げながら、つぶやいた。
職場を出て足早に路地裏を抜ける。
誰にも会わないように人気のない道を選んだ。
目撃者はいないはずだ。

待ち合わせのビルの前に、あいつはもう来ていた。
「おまたせ。早いね。」
わたしはにこやかに手を振りながら近づいた。
隠し持ったナイフが妖しく光る。

あの人が命を断ったこの場所で、わたしも命をかける。
こいつだけは許さない。

2/10/2024, 3:47:14 PM

『誰もがみんな』(創作)

あの日の恋はセピア色
遠い遠い追憶の秘め事

誰もがみんな知る月を
自分の物のように思えたあの日
あなたに抱きしめられ
肩越しに見た月はレモンの形によく似てた

わたしだけのあなただと
思い込んでた遠い日の恋心
あの日の恋はセピア色
幼さと淡さに弾けて消えた遠い恋

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