『今日にさよなら』
数日前から、お花のリースを折り紙で作り始めました。
動画投稿サイトにあった、素敵なリースです。
ただし、280個の花弁を折らなければなりません。
美しい作品は、楽ではなく根気と時間がかかるのだと改めて思い知りました。
毎日、空き時間にコツコツ折って、本日、やっと280個のパーツが折り終わりました。あとは組み立てるだけです。
明日には完成することでしょう。
難所を越えた達成感と、完成が見えてきた高揚感を抱きながら、素晴らしい今日にさよなら、そして、ありがとうとお疲れ様です。
『お気に入り』(創作)
わたしは執着しない。
お気に入りの物はたくさんある。でも、たくさんの中の1つに過ぎない。
わたしにとって、家族も、例外ではない。
お気に入りだったけど、特別ではなかった。
そう思うことで、生きていられる。
そう思わないと、失ったものの重みに押し潰されてしまいそうだから、絶望を忘れるために、お気に入りを増やす。
『誰よりも』(創作)
テレビが着いていた。
暗い部屋に、テレビのチカチカした光が動いている。
「消し忘れたかな。」
照明のスイッチを押す。暗い部屋が明るくなり、生活感のある見慣れた部屋が現れた。心なしかホッとした感覚を持つ。誰もいないのに、部屋に向かって「ただいま。」と思うのも、いつものことだ。こんな狭くて寂しい部屋でも、俺にとっては唯一の帰る場所なのだ。
テレビはまだ着いていた。
画面では、きぐるみの動物たちと、歌のお姉さんと歌のお兄さんと体操のお姉さんと体操のお兄さんが、とびきりの笑顔で歌い踊っていた。
そうだ、朝も見た番組だ。
俺は誰よりも、この番組が好きだ。
大人のしがらみのない明るく元気で素直な世界観に心洗われるようで、見ていると泣けてしまうほどに、この番組が好きなのだ。誰よりも疲れた俺に、お兄さんたちのとびきりの笑顔は元気をくれた。
明日も頑張れそうだ。
『10年後の私から届いた手紙』(半分創作)
【拝啓
去年より二週間も早く春一番が吹いた二月の暖かな日、あなたは前々から予定に入れていた朗読の講座に参加し、まだその余韻に浸っているころでしょう。
熱しやすく冷めやすいあなたにとって、朗読がどれだけ続くのか、さぞ自信のないことですが、これだけは伝えておきます。
十年後も、あなたは朗読を続けています。
発声練習と体力づくりは、日々の積み重ねですから、何卒サボらないようにお願いします。
あと、その頃に録音した朗読は、消さないでください。聞きたくなったときに、無くて困りました。
朗読、楽しんでますのでご安心を。
敬具
十年後のあなたより】
十年後のわたしから届いた手紙には、大して面白いことは書かれていなかったから、丸めて捨てた。
十年後も、わたしは面白味のない人間のままらしい。
『バレンタイン』(創作)
「何時に帰るの?」
家から出ようとする息子に声を掛けた。
「時間なんて数えてない。」と、靴を履きながら応える息子に、「時間って数えるものだった?」と問い直したところで、わたしは、しまったと思った。案の定、息子は「っるせーな。どうでもいいだろ。」と、毒づいてドアから出て行ってしまった。
しかし、彼はすぐに帰宅した。
「おかえり。早かったね。」と出迎えると、彼は手に紙袋を提げていた。可愛いらしいピンクの紙袋で、彼の風貌には似つかわしくなく、すぐ目に入った。
わたしの目線を察した息子は、「っるせーな。」と言いたそうにそっぽを向く。
今日はバレンタインだ。
あれは、きっと、チョコレートなのだろう。
わたしは、親として、なんとなく嬉しくなって、“バレンタインって素敵なイベントね”と、心の中でつぶやいた。