【254,お題:沈む夕日】
がららららら、車輪の回る音。息を切らしながら、どうにか食らいつこうとペダルを漕いだ
大量のススキが囲む一本道、急な上り坂になっているこの道を汗で髪を濡らしながら自転車で這い上がる。
とっくに限界がきている膝を懸命に動かし坂を上った。
この坂を上がれば、この坂を上がれば、それだけ考えて頭空っぽのままペダルを漕ぐことに集中する
遠かったゴールは目に見えるところまで迫ってきていた。
がちゃん!
自転車を止めたもう一歩も進めないほどに疲弊した足をさすって
それからコンクリートの地面に胡座をかいた。
なんでこんなに頑張ったか、それはこの景色の為だ
「はぁ...すげぇ...めっちゃ綺麗だなぁ」
今いる場所は急な上り坂の頂上、ここら一帯では一番高くなっている丘の上
他に遮るものがないこの場所は、水平線に帰っていく夕日を見るのには絶好のポイントだ
なんとなく思い立って家を飛び出し、沈む夕日を自転車で追いかけてそれが海に帰る瞬間を見てやろうと思った
まさかフルスピードで30分間漕ぎ続けることになるとは...
スマホを置いてきたことを静かに後悔しながら、夕日が海に溶けていくのをぼんやりと眺めて
ほぅ...と1つ溜め息をついた、頑張った甲斐があったというものだ
夕日がこんなに美しく見れるところがあるなんて、ここに来なければ分からなかった
夕日の最後の輝きまで見届けて、がしゃんと自転車を向きを返す
家に帰るまでが遠足だ、ここからは『暗くなる前に家に帰ろうRTA』のお時間となる
「やってやろうじゃん...!」
フッと少年の顔つきで笑って、自転車のペダルに足を乗せた。
【253,お題:君の目を見つめると】
君の目を見つめると、なんか変だ
勝手に体温が上がる 見える景色の彩度が上がった気がする
なんだかくすぐったい感じがする 緊張してしまう
どうしても君の周りだけ輝いているような気がするのは
きっと僕が"恋"を知ったから
【252,お題:星空の下で】
星空の下で1人、寝転がって空を仰ぐと
今まで見えなかったものが見えてくる気がする
満天の星の中、大宇宙にほっぽりだされたような気がする
大地から少し足を離して、星たちの仲間になる
そうすると心強い仲間が増えたみたいで嬉しくなる
【251,お題:それでいい】
「ずっとずぅぅっと...!だいっっっっきらいだったんだよっ!」
君に聞こえるように、絶対に聞き逃さないよう大声で叫ぶ
ちゃんと耳に入ったんだろう、表情が大きく歪んで見開かれた目がそれを示していた
「顔も!声も!存在事態が気色悪くて堪らない!」
ぽろぽろと涙をこぼしながら、なにか言おうと君は口を開くが
言葉にならない空気の塊ばかりが溢れるようだった
傷付いた表情で尚もこちらを見つめてくる、あああもう本当に君のそういうところが...ッ!
「早くどっか行けよ...!気持ち悪ぃんだよ、もう2度と俺に関わんな!」
背一杯の威嚇の気持ちで吼える、君は涙を流しながらようやく走り去ってくれた。
「......それでいい...ッ、」
心の中でごめんと謝る、俺は口下手だし不器用だからこんな手段しか取れない
怒っていい許さなくていい、愛想尽かして別の奴に俺の悪口を言ってくれてもいい
巻き込みたくなかった、俺のことなのに自分のことのように受け取って俺以上に悲しんでくれる君を苦しませたくなかった。
「ははっ...なんだよ......結局寂しいのは俺じゃねぇか...」
向き合わなくてはいけない、もう十分逃げただろ
辛いも全部慣れっこだ、今まで1人でいたんだ、また1人になることくらいなんだ
だから
「これでいいんだ...」
【250,お題:1つだけ】
「ずっと、君に言いたかったんだけど...」
1メートルほど離れた先で、あなたは優しく微笑んだ
手を伸ばしてもあと少し届かない距離、あなたが手を差し出してくれたら届くだろうに
一向にその気は訪れないようで、目の前の距離以上にあなたが離れていく気がした
「自分のこと責めないでね?これは私が選んだことだから、
遅かれ早かれこうなっていたことなの、君はなんにも悪くない」
「それと、...ありがとう
君に会えるなんて思っても見なかった、顔を見れただけで満足だったのに
一緒に暮らせた、少しの間だったけど普通の親子になれたことがすっごく嬉しいの」
ひゅうひゅうと谷に吹く風のような音がする
きっとこれは呼吸をする音だ、血が絡んで弱々しくなった呼吸の音
「最後に、1つだけ言わせて...?」
ぎゅうっと唇を噛み締めた血が滲むくらいに、泣きたくなかった
心配をかけたくない一心で無表情を決め込もうとしていた
俺はいつもこうだ、最後の最後に何も言えなくていつも後悔するのが俺だ
最後に、なんて言わないで、もうこれ以上俺を価値のない奴にしないで...
「生まれてきてくれて...ありがとう...」
「ッ...つぅ...ぅ」
「私は...お母さんはとっっっっても幸せでした...あなたに、あえて。
...辛いことが多い人生だったけど、あなたと親子になれて、もらった幸せの方が何倍も多い...」
もう押さえきれなくなって堰を切ったように涙が溢れる
一度堪えきれなくなると、もう抑えが聞かないようだった
涙で前が見えなくなるほど声を上げて泣いた
そんな俺を母さんはあの頃と全く変わらない、優しい優しい手のひらで、そっと頭を撫でた。
「あなたが世界で一番、幸せになれますように...」
title.幸一