無音

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【250,お題:1つだけ】

「ずっと、君に言いたかったんだけど...」

1メートルほど離れた先で、あなたは優しく微笑んだ
手を伸ばしてもあと少し届かない距離、あなたが手を差し出してくれたら届くだろうに
一向にその気は訪れないようで、目の前の距離以上にあなたが離れていく気がした

「自分のこと責めないでね?これは私が選んだことだから、
 遅かれ早かれこうなっていたことなの、君はなんにも悪くない」

「それと、...ありがとう
 君に会えるなんて思っても見なかった、顔を見れただけで満足だったのに
 一緒に暮らせた、少しの間だったけど普通の親子になれたことがすっごく嬉しいの」

ひゅうひゅうと谷に吹く風のような音がする
きっとこれは呼吸をする音だ、血が絡んで弱々しくなった呼吸の音

「最後に、1つだけ言わせて...?」

ぎゅうっと唇を噛み締めた血が滲むくらいに、泣きたくなかった
心配をかけたくない一心で無表情を決め込もうとしていた

俺はいつもこうだ、最後の最後に何も言えなくていつも後悔するのが俺だ
最後に、なんて言わないで、もうこれ以上俺を価値のない奴にしないで...

「生まれてきてくれて...ありがとう...」

「ッ...つぅ...ぅ」

「私は...お母さんはとっっっっても幸せでした...あなたに、あえて。
 ...辛いことが多い人生だったけど、あなたと親子になれて、もらった幸せの方が何倍も多い...」

もう押さえきれなくなって堰を切ったように涙が溢れる
一度堪えきれなくなると、もう抑えが聞かないようだった
涙で前が見えなくなるほど声を上げて泣いた
そんな俺を母さんはあの頃と全く変わらない、優しい優しい手のひらで、そっと頭を撫でた。

「あなたが世界で一番、幸せになれますように...」

title.幸一

4/3/2024, 12:54:02 PM