【234,お題:不条理】
つくづく思うが、この世は不条理で溢れている。
罪のない人間が罰され、疫病で大勢が死ぬ
道理に適っていないんだ。
神様は不平等で、気まぐれに大勢を殺し、気まぐれに大勢を助ける
もしこの不安定で理不尽なところが人生の楽しさだとでも言うのなら
死のすぐ側でもがき苦しんでいる人々の、その目を見ながら言ってほしい
誰もが幸せになる権利を持って生まれてくるが、持っているだけでは幸せになれない
理不尽で不条理だ
だが、言うだけでなにも変えようと思えない私もまた
彼らと同じレベルの人間と言うことなのだ。
【233,お題:泣かないよ】
「泣かないよ、お姉ちゃんだもん!」
いつからその言葉が重石になっていたんだろう。
"泣かない"は"泣けない"に変わっていって
自分より下の子が不安になってしまうから
弱い姿は絶対に見せられない
そうやって呪いをかけていくうちに
涙は渇き、悲しさという感情すらも薄くなっていった。
「別に姉だからって何でも我慢する必要ないんじゃない?」
そういってくれたのは一つ上の先輩で
「泣けないって辛いよね~感情の発露が上手く出来ないってことだもんね~」
えらいえらいよ~、って頭を撫でられたとき
ずっと張り詰めていて、切れなくなった何かがプツッと切れた気がして
私は初めて、姉なのに泣いた。
私は初めて、
「おーよしよし、ずっと頑張ってきたんだねぇ~」
甘えることを許された気がした。
title.頑張っていた私へ
【232,お題:怖がり】
ある森に、とても怖がりなヘビが住んでいました。
ヘビは自分以外の全てが、とても恐ろしいもので構成されているような気がしていました。
森に住む動物たちはいつも「一緒に遊ぼうよ」とヘビの家にやって来ます。
悪意のある言葉ではないはずなのに、上手く言葉が入ってきません
その言葉は本心なのだろうか、疑心暗鬼になりすぎて苦しい
何度も響くノックの音が怖くて、頭から布団を被り目を閉じました。
ヘビは動物たちがいなくなった後、そろりと起き上がり
窓から遊ぶ動物たちを眺めるのでした。
ある日森が真っ赤に染まるほどの山火事がおきました。
その日ヘビは自分の家に引きこもっていましたので、気付くのが遅くなり逃げ遅れてしまいました。
辺り一面真っ赤でどっちに逃げれば良いかわかりません
迷っているうちに火の手はどんどん迫ってきます
「ああ、僕はもうダメなんだ」息がつまるような恐怖の中
自分を守るように丸くなって、ヘビは怖さで泣き出したい思いでした。
その時、目の前に手が差し出されました
顔を上げるとそこにいたのは、この森で一番の体力自慢のクマでした
「早く逃げよう」自分よりも何倍も大きな体、ヘビは迷いました
ですが怖さよりも安堵がギリ勝ち、ヘビはクマに抱えられて無事に山火事から逃げることが出来ました。
安全な場所まで行くとクマはそっとヘビをおろします
他の逃げてきた動物たちが、ヘビを心配して集まってきました。
「大丈夫か?」「どこか痛いところはあるか?」「無事でよかった」
前よりも言葉がすんなり入ってくるようでした。もう怖くありません
ヘビは照れくさそうに笑うとみんなの輪に入っていきました。
title.怖がりだった蛇
【231,お題:星が溢れる】
君の命を奪うもの、それは分かっていた
だが、君の眼から溢れる星たちを見るたびに
その美しさにどうしようもなく魅了されていく
皮肉だ、君の未来を奪う宝石がこんなにも美しいなんて。
title.星涙病
【230,お題:安らかな瞳】
今まで何人も死者を見送ってきた。
僕の仕事は死んだ人間があの世へ行くための手伝いをすること
死んだら当然人間は動けないから、代わりに僕が身支度を行う
身体をきれいにして、衣装を取り替えて、化粧をして
僕のところに来る人たちはみんな安らかな顔をしていた
満足げな、それでいてちょっとだけ寂しそうな顔
乾いた唇に紅をさしながら、ふとその手を止めた
御遺体の目が開いている。
暫くの間ぼーっと見つめ合った、美しい瞳だと思った
だがこのままには出来ないので目蓋を押さえ引っ張って、目を閉じさせた
安らかな瞳だ、看取ってくれる誰かがいて、満足に死ねたんだろう
少しだけ、羨ましい。なんて
ポツリと空いた穴に気付かないふりして、青年は作業を再開した。