無音

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【230,お題:安らかな瞳】

今まで何人も死者を見送ってきた。

僕の仕事は死んだ人間があの世へ行くための手伝いをすること
死んだら当然人間は動けないから、代わりに僕が身支度を行う

身体をきれいにして、衣装を取り替えて、化粧をして

僕のところに来る人たちはみんな安らかな顔をしていた
満足げな、それでいてちょっとだけ寂しそうな顔

乾いた唇に紅をさしながら、ふとその手を止めた


御遺体の目が開いている。


暫くの間ぼーっと見つめ合った、美しい瞳だと思った
だがこのままには出来ないので目蓋を押さえ引っ張って、目を閉じさせた

安らかな瞳だ、看取ってくれる誰かがいて、満足に死ねたんだろう


少しだけ、羨ましい。なんて


ポツリと空いた穴に気付かないふりして、青年は作業を再開した。

3/14/2024, 12:57:22 PM