【173,お題:木枯らし】
木枯らしが吹く、くるくると舞い踊る木の葉が耳元を駆けていった
コートが風になびく、マフラーで口元を覆って
軽くスキップしながら地面を蹴り歩く
意味もなく途中で回ってみたり、鼻歌を歌いながら
木枯らしの演奏の中、一人家路を歩いた。
【172,お題:美しい】
美しいものというのは、いつだって心踊る
現実から切り離されたような圧倒的な美しさに
人は自然と引き寄せられるものなんだと思う
冬の野山の雪化粧、春の桜並木、夏の木々の木漏れ日、秋の澄んだ秋風
もともと自然に生きる者だったからだろうか
自然は居て心地が良い
どんなに綺麗なアートも、ビル街も自然の美しさには敵わない
この自然といつまでも共生できたら良いと思う。
【171,お題:この世界は】
この世界はつまらないことだらけだ、黒い目の少年が云った。
つまらなくても、つまらないなりに何かあるんじゃないかと
そう思って来たけど、それももう止めようかと思っている
人間は賢いからね、自分が経験したことを覚えている
そしてそのデータを元に見えないものを予測・分析する力がある
それ故に、ぱっとしない結果が続くと
もうこの先ずっとこうなんじゃないか、と今あるデータを眺めて
前を見るのを止めてしまう、期待をするのを止めてしまう
でもどうにか立ち上がって前を見据えて、震える足で1歩づつ進んできたのが人間なんだろう
それが普通なんだろう、その"普通"を証明できるわけがないのに
僕はもうやめる、飽きたゲームを捨てるのと何ら変わらない
捨てる場所が少し違うだけだ、ゲームはごみ捨て場へ僕は×××へ
案外取り乱さないものなんだな、凪いだ水面のように冷えた内蔵
この世界はつまらないから、どんな出来事も"その程度のもの"として掻き乱されるから
世の中のニュースとか記事とか、全部赤裸々に包み隠さず公開すればもっと世の中は面白かったかもしれないのに
きっと僕のこともすぐ忘れられるさ、この世界は皆が皆無関心を貫いてるんだから
...............
風が冷たかった。
【170,お題:どうして】
どうして僕は今ここに居るの?
どうしてあの時やめる勇気を出せなかったの?
どうして何も感じないの?
どうして?どうして?どうして?
そんなの
全ての選択を誤ったあの時からずっと
知ってるはずだ、僕はもう手遅れだって
病んでるとか、痛いとかじゃない。多分
病んでるならもっと辛くて苦しい、何故か凄く泣きたくて誰かに話を聞いてほしくなる
だけど正常でも無いんだろうな、無気力無関心
わざとテンションを上げたり軽く喋ったりしてるけど
「何も偽らずに過ごして」って言われたら、きっと僕にそれは出来ない
全部嘘みたいなものだから、身ぐるみを全部剥がそうとしたら
最後には何も残らないんじゃないかな
自分でも自分がなんだか分かんない
辛くも楽しくもなくて、漠然とした不安感のせいでちょっと生きる行為事態が怖い
哲学とか精神的な目に見えない核心を探そうとして躓くタイプだから
どうして?なんで?が止まらなくて、考えちゃいけない深いとこまで潜って勝手にダメージを受けてる
パッと終わらせてしまえばいいのに勇気がない
終わらせるのが一番の解決策だって頭では分かってるけど、理解するのと行動するのとではまた違うから
結局大量のどうして?を繰り返し唱えながら、なんとなく終わるまで生きています。
【169,お題:夢を見てたい】
夢を見ていた。
それは"普通"とは言い難いもののとても幸福な夢だった。
あの人が生きている世界、何もかも全部上手くいって
私の隣から誰一人欠けることなく平凡なそれでいて特別な日々を過ごす夢
ああ、こんな幸せに過ごせるわけがないのに
失いたくないものは必ず失われるのがこの世の理だというのに
これから起こる全ての不幸が示し合わせて姿を消したように
夢の中では辛いことは何もなくて、望んでたことが全て実現する
まさに理想郷、ユートピア、桃源郷とはこの夢のことだろう
たが、決まって黒い服に全身を包帯で覆った少年が夢に出てくる
彼だけはこの極楽浄土とも言える夢の世界で、異常なまでの異質さを放っていた
例えるなら、能天気な羊の群れの中に、ただ一匹紛れ込んだ狼のような
真新しいページの中に一つ落とされた、黒いインクのシミのような
そして、束の間の夢の世界に溺れようとする私を戒めるように
袖を引っ張って云うのだ「これはお前の幼稚な妄想に過ぎない」
その顔を覆った包帯の、洞穴のような眼球は
細胞の一つ一つまで透かし見ているようで、全てを寄せ付けない断絶の響きがある声色は
とても少年のものとは思えない独特な重たさがあった。まるですでに人生の全てを悟ったかのような
人間でありながら人間から1番遠いところに居るような彼の声で、私はいつも夢から覚める。
固いベット、やけに身体が冷えていると思ったらそこはベットではなく
自室の床の上に死体のように転がっているのが私だった
前日寝る前に首に掛けたロープはいつの間にか外れて、
捨てられた蛇の脱け殻のようにベットの上から垂れ下がっていた
寝てる間に、あの幸福な夢の中に居るうちに死んでしまえばいいのに。そしたらきっと苦しまずに旅立てるだろう
そう数秒考えてから思い切り自分の頬を打った、ジンと熱を持つ手のひらで何度も続けて頬を殴打する
本来の目的を見失ってはならないと自分への戒めも込めて
私は立ち上がった。計画の二段階目まだまだ先は遠い
『夢を見ていたい』なんて願いに時間を割く方がもったいない
一歩進もうとして膝から崩れ落ちた、強かに顔を打ちガチンと顎がなる
やけに視界が揺れている、車酔いの直後のような......
じわじわと視界が歪んでぼやける
――叶うならずっと夢を見ていたかった。