【98,お題:鏡の中の自分】
鏡の中の自分は、優しくて 誰からも好かれる少年
鏡の中の自分は、怒りんぼで 皆から怖がられる青年
鏡の中の自分は、愛想良くて 皆から可愛がられる少女
鏡の中の自分は、頭が良くて なんでも要領よくこなす優等生
鏡の中の自分は、運動が出来て 皆の憧れるスポーツマン
鏡に映る自分は、ボサボサの髪に 死んだ瞳の無気力な青年
鏡に映る自分は、生きることを嫌い死ぬことを恐れた 社会の老廃物のような生き物
鏡に映る自分は、前にも後にも進めず戻れない ただ酸素を消費し続ける 生産性の欠片もない肉塊
理想を映す鏡は、それと同時に現実をも映す
変わりたい理想と、変われない現実に板挟みにされ圧死していくのが 腐りきった自分の行き着く先か
【97,お題:眠りにつく前に】
眠りにつく前に、ふと思うんだ
この世界が今日で終わりになるならば、こんなに嬉しいことはないな
別に、病んでるとか そういうことじゃないんだよ?
ただ静かに、穏やかに、この世の全てのもの達が 柔らかな夢に誘われて
もう二度とその目が覚めなければ良いのに
僕はこの世界が、生き物が大っっっ嫌いだ、壊したい程憎いし 実際滅べば良いと思っている
でもそれと同じくらい、この世界を人間を愛している
残忍さも冷酷さも、優しさも慈悲も慈しみも 感情に振り回されて他人を傷付け、あるいは救う
そんな愚かな行為、その穢れこそ”人間らしい”じゃないか
そんな愛すべきもの達を、苦しませるのは忍びない
だから
穏やかな、優しい優しい温もりに包まれて、緩やかに苦しまず消えてしまえ
もう破壊も創造もしなくて良い
暗く静穏な闇の中で、深い眠りにつき そして二度と起き上がるな
眠りにつく前に、ふと思う
ちっぽけな脳内の想像世界
【96,お題:永遠に】
「永遠に生きていたい」
人里離れた丘の上で、砂糖菓子を散りばめたような美しい夜に、誰かがそう願いました
何が彼女をそこまでさせたのか、手を組み、ただただひたむきに願うその様が
神には哀れに見えたのでしょう
星が降る夜に、1人 人間が消えました。
変わりにそこにあったのは、夜風を受けて揺れる1本のハナミズキ
人の気配が失くなったその丘に、月の光のスポットライトに照らされ
美しく佇む、彼女の姿がありました。
【95,お題:理想郷】
理想郷、理想的で完全な社会。
しかしこれには、省いた説明がある
「ライア~!これ見てよ!新作のゲーム、無料で配られるって!」
「んぇ...、...!えっマジ!やった~」
均一な青い空の下、スキップしながら駆けてくる友達
明るい太陽に照らされ、うつらうつらと船を漕いでいるところだった僕の意識は
その言葉に急速に覚醒した
「いやぁ、にしても今日はホントに天気が良いね」
「わかる、太陽も眩しすぎないし、ほどよく暖かくて涼しいし丁度良いわ」
今日の天気は晴れ、気持ちが良いほどの快晴だ
暑すぎず寒すぎず、薄着でもなんなく外でで過ごせる程の心地よさ
それに加え
「てか、学校がなくなったのマジ神だと思う!」
「それなぁぁぁ!?」
「義務教育とか意味わからんよ、金かかるしさ!勉強なん家で出来るだろ」
つい最近、学校が義務教育ではなくなった
理由は知らないが、学校に行く行かないの選択権が子供に委ねられることとなったのだ
その他にも、改正されたものはたくさん存在する
「子供権限とかさ、神機能だよな」
「わかるわぁ、子供なら菓子もゲームも無料って、考えた奴褒めちぎるわ」
この国はだいぶ変わった、”ここ数週間の間に”
「なあ、なんか変だと思わないか」
「なにがだよ」
「俺さ、毎日日記書いてんだ、それで...変なんだよ」
「”日付が動いてねえんだ”」
ぐにゃり、と空が歪んだ
ビキキッ、不快な音を立てて背景にヒビが入る
「”あの日”から、なあ...お前なんか知ってんだろ」
「ぁあ、...あ”あぁあ...!」
理想郷、”想像上の”理想的で完全な社会。
【94,お題:懐かしく思うこと】
僕は、未来を見るより過去にすがってしまう人間だから
初めてランドセルを背負った、春の匂い
ハンモックで昼寝した、雨の日の午後
家族みんなで飾り付けた、クリスマスツリー
公園で走り回った、秋の空気
布団にくるまって眠りについた、冬の夜
全部全部鮮明に思い出せるよ
人の一番冴えてる器官は鼻だというけど、僕は本当にそうだと思う
未来から目をそらして、楽しかった過去を
温かなホームビデオを見るように見つめ返す
でも、時間って意地悪だから僕を引きずって連れていく
懐かしく思うこと、僕の過去全ての日々