無音

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10/29/2023, 11:07:15 AM

【93,お題:もう一つの物語】

人生はいろんな選択の繰り返しなんだ

あの時こうすれば良かった、こうしなければ良かったって

当たり前のように小さな後悔を重ねる

でもそれと同時に、

あの時こうして良かった、こっちを選んで良かったって

同じくらい幸せも重ねるんだ


きっと、僕らが今存在する世界は

たくさんの世界の中の一つにすぎなくて

『あの時選ばなかった方のもう一つの物語』も、無数に存在しているんだろう

だけど、もし『もう一つの物語』を見れるとして

僕はあまり見たいとは思わないかな

少なくとも生きているこの間は

満足に生きられた、幸せだったって思いながら眠りにつくんだ

そしたら他の世界を見に行こう

たくさんの人、一人一人の人生物語

エンドロールまで眺めたら、また別のものを

僕の人生も、他の人が見たときに「いい話だね」と言ってもらえるよう

納得がいくよう生きなくては

10/28/2023, 2:58:52 PM

【92,お題:暗がりの中で】

壊れかけの蛍光灯が点滅している
生きた人間の気配なんて微塵も感じない、そんな暗がりの中

「兄ちゃぁぁぁん!どこぉぉ!」

ぐすぐす嗚咽を上げながら、年端もいかない少年が歩いていた

「うぅ...ッ...兄ちゃんッ!うあああっ」

いつからここにいるんだっけ、きのう?そのまえ?
まだそんなにたっていない気がするのに、もう何日もここにいるような気もする

おなかすいた、足もいたい、かえりたいよぉ

『#@8/*=?ー=-??;*8@92#(%:』

「な、なに...?」

『#8/+#@ナ、ナ...ナナナニ*%;(?!+』

「だれか...いる?」

『#%&:(イ、イッイイル...イル、イルヨ(%&!=+[』

「...だれ」

『アソボ アソボ』

『コワクナイ コワクナイ』

『コイ コイ』

『オマエ モ ナ カ マ』

「ッ...えっ」

ガッッシャアアッッッン!

窓に映った灰色の満月、それを粉々に蹴破って誰かが入ってきた
赤い髪、左手に構えた霊刀、そして自分に良く似た顔立ち

ビッ

『ヴグォオォ!オッオオオオオマ オマエ モ ツレ[!:):**%))』

...グシャッ

瞬きする間も与えずに、目の前の霊を叩き切った人影
それでもなお呻く肉塊をブーツで踏みつけ、湿った音が響いた

「兄ちゃん!」

「雷、怪我はない?」

暗がりの中、慌てたように駆け寄り聞いてくる
「平気!」と答えると「良かった」と安堵し、それからすぐ表情を引き締めた

「早く外に出て!そこの階段を下りてすぐだから!」

手を引かれ階段を駆け降りる、外に出た瞬間後ろの建物が地響きを立てて崩れた


「あ、危なかったぁ...」

心の底から安心したような笑顔で笑う兄
雷も釣られて笑い、ふと自分が今すごく空腹なことに気付いた

「お腹空いたね~、雷どっか行きたいとこある?」

言う前に先回りされ少々驚いたが、何でもいいと答える

「じゃあ、お寿司とか行ってみよっか」

暗がりの中、手を繋いで歩く兄弟の姿があった

10/27/2023, 2:12:40 PM

【91,お題:紅茶の香り】

とぽぽ、という小気味良い音とともに、辺りに広がるフローラルの香り
...この匂いは

「まぁた紅茶、しかもカモミール?」

「!...バレたか...」

小さく苦笑しながら、コップに入った暖かな液体が運ばれてくる
手渡されたものを口にし、違和感に気付いた

「ん...?...これ、他になんか入れた?」

首をかしげもう一度、今度はよく味わって飲む

「なんだと思う?」

「っあ!もしかして...リンゴ?」

「お、当たり」

昼も夜もなくなった、暗闇に閉じ込められた世界では植物なんてほとんど育たない
肉や魚はとんでもない貴重品だ、ましてや植物、果物なんてまずお目にかかれないような超超高級品

「はぁ!?そんな高級品どこで...」

「ん、ちょっとね」

どうやら答える気はないらしい

「てゆーか、ルカはずっとカモミールばっか飲んでるよね?飽きない?」

コクリと喉を鳴らし、ルカが口を開いた

「お気に入りなんだ、他のハーブティーも好きだけど...これは特別だからね」

「ふーん、別に紅茶嫌いじゃないけどたまには他のも淹れてよね、ホットミルクとか!」

「...それはエドが甘党なだけじゃ」

「ばれた?砂糖多めで頼むよー」

「砂糖もミルクも貴重品だと言うのに...」

しばらくお互い沈黙し、淡々とカモミールティーを飲み干す
と、唐突にエドが声を上げた

「ねぇこれって、紅茶とハーブティーどっち?」

「んんん...?ハーブ...ティー...?かなぁ?」

「紅茶も葉っぱ使ってない?」

「そう言われると、なにも言えないねぇ」

「ハーブってなんだっけ?」

「薬とか香料に使う草全般を指すらしいよ」

「...もしかして、紅茶もハーブティーも同じ?」

「それ私も思ったところ」

また沈黙、視界からの情報が無い以上、話のネタは尽きやすい
少しし、またしてもエドから口を開いた

「......もうこれさ、どっちかに決めない?紅茶か、ハーブティーか」

「紅茶」

「あ、奇遇僕も紅茶」

.................。

「「.........もうこれでいいか」」

紅茶の香りがフッと鼻を撫でていく、静かな夜の外気の中
ただ二人の姿だけが、なにも変わらずそこにあった

10/26/2023, 10:53:21 AM

【90,お題:愛言葉】

「おはよう」「おはよう」

「いってきます」「いってらっしゃい」

「ただいま」「おかえり」

「いただきます」「どうぞ召し上がれ」

「おやすみ」「おやすみ」

何気ない日常会話、その全てが

僕と君の『愛言葉』

10/25/2023, 2:17:05 PM

【89,お題:友達】

『私は、いつか海を見てみたい』

それが、友達の最後の最後の言葉だった。


ザァァァァァァァ.........

冷たい雨粒がアスファルトを打つそんな夜

友達はその硬いアスファルトの上で、動かなくなった

「みゃぁ......ぅにゃおぉ...」

前足で引っ掻こうが、耳を噛もうがピクリとも動かない
いつも頭を撫でてくれた手は、石のように硬くなって地面に落ちている
共に眠りについた時暖かかった身体は、今はほんの少しの温もりも残っていない
目は濁りきって、悲しそうに地面を眺めていた

『私は、いつか海を見てみたい』

海がなんなのか、この猫は知らない
しかし、この友達がもう自力で動けないことは猫でも理解できた

ならば、自分が海を持ってくればいいのだ

猫は走り出した、今は亡き友の願いを叶えるため

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