無音

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【91,お題:紅茶の香り】

とぽぽ、という小気味良い音とともに、辺りに広がるフローラルの香り
...この匂いは

「まぁた紅茶、しかもカモミール?」

「!...バレたか...」

小さく苦笑しながら、コップに入った暖かな液体が運ばれてくる
手渡されたものを口にし、違和感に気付いた

「ん...?...これ、他になんか入れた?」

首をかしげもう一度、今度はよく味わって飲む

「なんだと思う?」

「っあ!もしかして...リンゴ?」

「お、当たり」

昼も夜もなくなった、暗闇に閉じ込められた世界では植物なんてほとんど育たない
肉や魚はとんでもない貴重品だ、ましてや植物、果物なんてまずお目にかかれないような超超高級品

「はぁ!?そんな高級品どこで...」

「ん、ちょっとね」

どうやら答える気はないらしい

「てゆーか、ルカはずっとカモミールばっか飲んでるよね?飽きない?」

コクリと喉を鳴らし、ルカが口を開いた

「お気に入りなんだ、他のハーブティーも好きだけど...これは特別だからね」

「ふーん、別に紅茶嫌いじゃないけどたまには他のも淹れてよね、ホットミルクとか!」

「...それはエドが甘党なだけじゃ」

「ばれた?砂糖多めで頼むよー」

「砂糖もミルクも貴重品だと言うのに...」

しばらくお互い沈黙し、淡々とカモミールティーを飲み干す
と、唐突にエドが声を上げた

「ねぇこれって、紅茶とハーブティーどっち?」

「んんん...?ハーブ...ティー...?かなぁ?」

「紅茶も葉っぱ使ってない?」

「そう言われると、なにも言えないねぇ」

「ハーブってなんだっけ?」

「薬とか香料に使う草全般を指すらしいよ」

「...もしかして、紅茶もハーブティーも同じ?」

「それ私も思ったところ」

また沈黙、視界からの情報が無い以上、話のネタは尽きやすい
少しし、またしてもエドから口を開いた

「......もうこれさ、どっちかに決めない?紅茶か、ハーブティーか」

「紅茶」

「あ、奇遇僕も紅茶」

.................。

「「.........もうこれでいいか」」

紅茶の香りがフッと鼻を撫でていく、静かな夜の外気の中
ただ二人の姿だけが、なにも変わらずそこにあった

10/27/2023, 2:12:40 PM