【58,お題:形の無いもの】
「けしやうものか ましやうものか 正体をあらはせ」
油断していた、いつもならすぐ逃げれたのに
シャラン......
「あ...ぁぁ...あぁ......」
「ふーん、人じゃない奴が紛れてるとは薄々感じていたけど...へえ、結構上手く化けるじゃん」
霊刀を腰に携えた男、短く切った短髪で顔に火傷の痕がある
スッと冷酷なまでに細められた目が、こちらをジィッと見下ろしていた
「さて、なんか遺言とかある?さっさと言ってもらえると助かるんだけど」
「ぁ...ぇあ」
「ほーら、喋れるだろ?早く言えよ祓うぞ?」
ビチチッと霊刀の雷が空気を裂く
戦ってもまず勝てないし、逃げるのも難しそうだ
「...じゃ、遺言は無しってことで、さっさと祓うから逃げんじゃねえぞ」
「まっ、待って!殺さないでくださいっ」
寸前でピタッと霊刀が止まる、一歩間違えば脳天をぶち抜かれていただろう
怖さで竦み上がる喉から、必死に絞り出した声はなんとか届いたらしい
「あ”ぁ?それみーんな言うんだけどさ、見逃したらお前ら人喰うじゃん」
「たっ食べません!誰も襲いません!だからッ」
「信用できねーな、こっちも守るもんがあんだよ
形もないような薄っぺらなお前らと、僕たちじゃあ比べられないの」
バチバチバチッ
「じゃ、そゆことでさよーなら」
ドシュッ!
数秒経過した、痛みはなかった
「...ッ...?」
「あぁ、でも...使えるもんは使った方がいいか」
ぽそっと呟いて、いきなり霊刀をしまいだす男
私のことはもういいのだろうか?さっきまでの殺意ももう感じられない
「お前何ができる?」
「え、......れ、霊力が他の霊より少し強いくらいかと...」
「ま十分かな、君僕と契約して」
「はい?」
「分かりやすく言おうか、お前今日から僕の奴隷ね」
右の手の指を噛み、血の垂れた人差し指で額をトンと突かれた
そのとたん、バチっと視界が弾け目の前が真っ暗になる
「一方的な契約じゃ、君の力が生かされない...まいっか、後で上書きしよう」
ざりり、と地面をなぞる音
しばらくすると、パチッと電気が付くように視界が戻った
心なしか、以前よりくっきり色づいている気がする
「ようこそ」
人間の世界へ
【57,お題:ジャングルジム】
ジャングルジム、私にもあの器用に動く五指があれば登れるだろうか
登り棒も、あの身軽さがあれば簡単に頂上まで上がれてしまうのだろうか
滑り台も、ブランコも、シーソーも
丈夫な2本の足と腕、それさえあれば私にもできるのだろうか
夕暮れ時の公園で遊ぶ、たくさんの子供の影
その子らを見守るように小さな神社の戸口から、白い蛇が顔を覗かせていた
鋭く紅い双眼で、楽しげな人の子を眺めるその姿は
どこか憂いを帯びていて、儚い眼差しだった
【56,お題:声が聞こえる】
「貴方って人は!また他の女と遊んだでしょ!?いくら使ったと思ってんの!」
「うっぜーなァ!お前こそ、たいして働いてもねーくせに!」
「なんですって!?そんなに言うなら離婚すればいいじゃない!」
パパとママ、きょうもケンカしてるなぁ...
閉じきった扉の向こうで響く、怒声と物音
電気も付いてない薄暗い部屋で、少年は描き上げた絵を片手に暇をもて余していた
『悠、今は向こうに行っちゃダメだよ』
「うん、わかった」
ほんとは、はやくママたちにみせたいけど、おにいちゃんがダメっていってるし...
「はやくケンカおわんないかな~」
『......そうだ悠、なぞなぞ好き?』
「んー、まあまあすき!」
『じゃあ、俺が出すから答えてね-』
少年には、不思議な声が聞こえる
初めて聞こえたのは、3歳くらいのときだろうか?
頭に直接響いてくる若い男性の声、親がケンカしている時の話し相手は決まって彼だった
『パンはパンでも食べられないパンはなーんだ』
「?パンはぜんぶたべられるよ」
『うーんw、そうだけど違うなぁw』
自分にしか聞こえない声、怖がらずに受け入れてるのはその幼さ故か
それとも、小さいながらに押し殺した心細さが見せた幻影か
「たべられないパンは、パンじゃないじゃん!」
『ブフッwww違う、wそうじゃないww』
どちらにせよ、関係ないことなのだろう今の少年にとっては
【55,お題:秋恋】
それは突然のことだった
親が神主の私は、よく神社の掃除を手伝わされていた
銀杏と紅葉の木が並ぶ、参道の周りの掃き掃除
いつものことながら、毎日やっていたらさすがに飽きる
しかも今日は風が強い、軽い落ち葉は私を弄ぶようにあっちへこっちへと舞い踊った
早く終わらないかな~とか、今日の夕ご飯なんだろうな~とか
雑念まみれで、ひたすら手を動かす
...チリン
「鈴の音?」
...チリン
なんだろうと、首を回らしていると
ぶわっと一際強い風が吹いた
後ろに気配を感じて振り返る、寺育ち舐めんな
「えっ...と、どちら様ですか?」
踊り舞う木の葉の中で、優雅に着物を着こなした背の高い男性
青い短髪に、秋を閉じ込めたような赤と黄色の混ざった瞳
手首につけた数珠の鈴がチリンと鳴って、その人と目があった
「あ、どうも...」
うわ、まつげ長...めっちゃ顔綺麗だなこの人
「君は...俺が見えるんだね」
そう言ってふにゃんと細められた目元
秋だというのに、彼の周りだけが春のようだった
【54,お題:大事にしたい】
大事にしたいもの 今まで大事にできなかったもの
いつもいつも我慢してた すり減っていくのがわかってた
余裕がなかったの ごめんね
もう大丈夫だよ 今までありがとう
私のかわりに嫌なこと全て引き受けてくれた
地獄のような毎日を生き抜くために
私が作った「ワタシ」
もう私は大丈夫だから これからは
この傷も痛みも全部 大事に抱えて生きていくよ
いつか ああ幸せだったなって思えるよう
今まで傷付けちゃったぶん
わたしのことを 名一杯大事にしてあげたい