【53,お題:時間よ止まれ】
それは、学校の帰り道
僕は幼馴染みの葵と一緒に帰ってたんだ。
「あおちゃん、映画のチケットとれたんだけどさ一緒に行かない?」
「えーなんの映画?」
なんて普通の会話をしながら
「あっ、ねこちゃんだ!」
「ちょ、待ってよあおちゃん」
その時だった
「危ないっ!逃げてっ!」
ギキィィィィィッッッッッ!!!!!
物凄く不快な音が耳を突き抜けて、誰かの悲鳴が聞こえた
暴走したトラックが突っ込んできたと気付くのに1秒
トラックが突っ込んでいく方向に居る、僕の大好きな人
このままだと、あおちゃんにぶつかる...!
「あおちゃんっっっっっ!!!」
今まで生きてきた中で、一番強く願った
止まれ!止まれ!止まれ!
ダメだ間に合わなッ...
................................................................................ガコン
「...あ、えっ」
その、何かがはまるような音がした。その刹那
...僕を残して、周りの全てが止まっていた
ゴムの焼ける耳障りな音も、叫ぶ人だかりも
空を飛ぶカラスの群れも、飛行機雲も全部
「何だ...これ...」
取り敢えず、チャンスだ
トラックの眼前に迫った幼馴染みを、安全な場所に移動させ
その身体に傷がないことに安堵していると
..................................................................................ガコン
また、あの音
「っ!...あ、あれ?私生きてる...」
その瞬間、周りは動き出した。まるでなにもなかったかのように
「あ、あおちゃんっ」
「わっ、茜くん!大丈夫?泣いてるよ」
さっきのは、何だったのだろうか?
心配そうに幼馴染みがこっちを覗き込んでくる
ふと、後ろの電柱の上に白い後ろ姿が見えた
よ か っ た ね
唇だけでそういうと、瞬きするまに消えてしまった
「茜くん...?どう、したの?」
あの日僕は、人ではない何かに救われたらしい
【52,お題:夜景】
カラフルな色が咲き乱れる夜
涼しい風を浴びながら、軽やかに階段をかけ上る
ここはとあるビルの屋上、かなり錆びてたし多分もう廃墟だろう
夜の空気を全身で吸い込み、ふわふわとした足取りで屋上の隅に向かう
上から身を乗り出すと、うっとりするほど美しい夜景が目に飛び込んできた
これから私は天使になるんだ
この腐りきったこの世とおさらばして、自由の翼を手に入れる!
きっとどこまでも飛んでいけるんだ、縛るものはなにもない
靴を脱ぎ、危なっかしく縁に足をかけて立ち上がる
両手を大きく広げた、あんなに淀んで見えた世界が夢のように綺麗に歪んで見えた
フッと、体から力を抜く
私を抱き止めるように、大きく手を広げた街並みが見える
目に突き刺さるネオンの光り、夜なのに騒がしい街
...さようなら
朦朧とした意識の中、最後に聞こえたのはサイレンの音だった。
【51,お題:花畑】
最近よく夢を見るんだ
僕は、昼夜問わず眠くなってしまう体質なんだけど
眠ってしまったときは決まってこの夢を見る
大きな花畑の真ん中で、誰かが立ってる夢
顔まではわかんないし、喋ったこともない知らない人のはずだけど
この夢から覚めた時は、いつも大切な何かがこぼれ落ちたような虚しさがあった。
また、この夢...
たくさんの花に囲まれた、もう見慣れてきた風景が目に入る
ザァっと風が吹き、いつもの誰かが数メートル先に立っていた
ここまではいつもと同じだった
しかし、花畑に立ちすくんでいるその人は、何故かこっちに向かってきた
いつもと違う...
初めて違う行動をしたのと、今日は顔が見えるかもしれないという
少しの期待に、ドキドキしながらその人が近付いて来るのを待った
「ここに来ないで!お兄ちゃん!」
「えっ」
初めて見た顔は、恐ろしい程自分に似ていた。
自分と同じ黒髪を後ろで低く結った、自分とそっくりの顔をした少女
面識はない...はず、しかもさっき「お兄ちゃん」って...
「帰って!ごめんなさいもう連れ込まないから」
ギュンと景色が歪む
何事かと辺りを見回したときには、もう既に半分ほど闇に飲まれていた
「ねえっ!君...」
どこかで会った、そう聞く前に僕の意識は途切れてしまった。
目を覚ますと、いつもの風景
父さんと母さんは、ぼんやりと部家の壁に背を預けていた
「ねえ...父さん、僕って......双子だったりする?」
かつてないほどに見開かれた瞳に、僕は確信した
あとから聞いた話だけど、僕は双子で妹が居たそうだ
でも、建物へ避難してる途中で爆発に巻き込まれて亡くなった
あの子が夢に何度も僕を呼んだのも、きっと寂しかったんだろう
「...いつでも呼んでよ、会いに行くから」
その晩見た夢では、花畑の真ん中でとびきりの笑顔で笑う妹がいた
【50,お題:空が泣く】
そこは1人の少年の気分だけで、天気が変わる世界
彼が笑えば空は晴れ、彼が泣けば空も泣く
そんな世界で、少年は1人膝を抱えて泣いていた
泣くな...泣くな...泣くな...
みんながそれを望むから
笑わなきゃ...笑わなきゃ...笑わなきゃ...
晴れなきゃ布団も干せやしない、洗濯物も乾かない
笑え...笑え...笑え...笑え...笑え...
必死に暗示をかけながら、両手で自分の頬を引っ張る
足元の水溜まりに写った少年の顔は、まだ泣いていた
ザアアアアアアアアッッッッッッッ
雨は勢いを増す
こんな山奥に人がいるはずないのに、見られている気がする
「こんなこともできないのか」責められてる気がする
「っ、ごめんなさいごめんなさいッ...ちゃんとやるから...」
その時、ふっと雨が和らいだ
変わらず降っているがさっきまでの叩き付けるような豪雨じゃない
優しい優しい包み込むような、小降りの雨
まるで、笑わなきゃいけない自分の変わりに泣いてくれるような
ブワァと風が吹く、森が揺れ木の葉が舞った
ビュウウ、ビュウウとまるで「元気だして」と歌うように
その風に押されて、雲が揺れる
曇天を押し退けて、光が覗いた
「...!わぁ...」
丘から見渡す町の景色、曇っているのに晴れていて晴れているのに泣いている
不思議な不思議な景色
キラキラ光りながら、舞い降りてくる雨粒達は
シャボン玉のように七色に色を変えた
「あ、虹だ...」
ふと、雲と太陽の間に七色の尾びれが覗く
ぽかぽかと、心地いい気温の中
うとうと微睡みながら、少年は空を見た
いつか見た、大好きな空の景色
この空が見れるのなら
このお役目も、悪いものじゃないのかな
ぼんやりとそう思い、少年は瞳を閉じた。
【49,お題:君からのLINE】
俺のスマホはちょっと変わっている
...ピロンッ
「おー?今日はどっちかなーっと」
【新着:未来】
「今日は未来からかぁ~」
俺のスマホは一日一回、過去か未来からLINEが来る
相手もわからないし、そもそもどういったことが起きてるのかすらわからないが
学校の成績は、下から数えた方が早い。俺
考えることを早々に放棄し、この不可解な現象を楽しむことに専念している
「んー?何々...」
[おい、この文見てる人
マジで聞いてくれよー、今日のアルバイトなんだけどさぁ!
江本店長にすげえ怒られちまってさーーっ
にこぉって、すっげえ怖い笑みで後ろに立たれててぇ心臓凍りそうだったわ...
げっ、って呟いて先輩逃げるしぃ...
ろくでもないとこに、バイト入っちまったよぉー...]
「wぶっww、大変だなぁーw」
小さく吹き出しながら文章を目で追う、他愛もない日常の1コマ過ぎるだろw
「ん、...あれ」
ふと、俺は動きを止めた
「...これ」
ザアァっと背中を悪寒が撫でる
ブヅッ......
次の瞬間、部家の電気が切れた