無音

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9/23/2023, 2:56:04 PM

【57,お題:ジャングルジム】

ジャングルジム、私にもあの器用に動く五指があれば登れるだろうか

登り棒も、あの身軽さがあれば簡単に頂上まで上がれてしまうのだろうか

滑り台も、ブランコも、シーソーも

丈夫な2本の足と腕、それさえあれば私にもできるのだろうか



夕暮れ時の公園で遊ぶ、たくさんの子供の影

その子らを見守るように小さな神社の戸口から、白い蛇が顔を覗かせていた

鋭く紅い双眼で、楽しげな人の子を眺めるその姿は

どこか憂いを帯びていて、儚い眼差しだった

9/22/2023, 2:48:28 PM

【56,お題:声が聞こえる】

「貴方って人は!また他の女と遊んだでしょ!?いくら使ったと思ってんの!」

「うっぜーなァ!お前こそ、たいして働いてもねーくせに!」

「なんですって!?そんなに言うなら離婚すればいいじゃない!」


パパとママ、きょうもケンカしてるなぁ...

閉じきった扉の向こうで響く、怒声と物音
電気も付いてない薄暗い部屋で、少年は描き上げた絵を片手に暇をもて余していた

『悠、今は向こうに行っちゃダメだよ』

「うん、わかった」

ほんとは、はやくママたちにみせたいけど、おにいちゃんがダメっていってるし...

「はやくケンカおわんないかな~」

『......そうだ悠、なぞなぞ好き?』

「んー、まあまあすき!」

『じゃあ、俺が出すから答えてね-』


少年には、不思議な声が聞こえる
初めて聞こえたのは、3歳くらいのときだろうか?

頭に直接響いてくる若い男性の声、親がケンカしている時の話し相手は決まって彼だった


『パンはパンでも食べられないパンはなーんだ』

「?パンはぜんぶたべられるよ」

『うーんw、そうだけど違うなぁw』


自分にしか聞こえない声、怖がらずに受け入れてるのはその幼さ故か
それとも、小さいながらに押し殺した心細さが見せた幻影か

「たべられないパンは、パンじゃないじゃん!」

『ブフッwww違う、wそうじゃないww』

どちらにせよ、関係ないことなのだろう今の少年にとっては

9/21/2023, 10:55:35 AM

【55,お題:秋恋】

それは突然のことだった

親が神主の私は、よく神社の掃除を手伝わされていた
銀杏と紅葉の木が並ぶ、参道の周りの掃き掃除

いつものことながら、毎日やっていたらさすがに飽きる
しかも今日は風が強い、軽い落ち葉は私を弄ぶようにあっちへこっちへと舞い踊った

早く終わらないかな~とか、今日の夕ご飯なんだろうな~とか
雑念まみれで、ひたすら手を動かす

...チリン

「鈴の音?」

...チリン

なんだろうと、首を回らしていると
ぶわっと一際強い風が吹いた

後ろに気配を感じて振り返る、寺育ち舐めんな

「えっ...と、どちら様ですか?」

踊り舞う木の葉の中で、優雅に着物を着こなした背の高い男性
青い短髪に、秋を閉じ込めたような赤と黄色の混ざった瞳

手首につけた数珠の鈴がチリンと鳴って、その人と目があった

「あ、どうも...」

うわ、まつげ長...めっちゃ顔綺麗だなこの人

「君は...俺が見えるんだね」

そう言ってふにゃんと細められた目元
秋だというのに、彼の周りだけが春のようだった

9/20/2023, 11:31:30 AM

【54,お題:大事にしたい】

大事にしたいもの 今まで大事にできなかったもの

いつもいつも我慢してた すり減っていくのがわかってた

余裕がなかったの ごめんね

もう大丈夫だよ 今までありがとう

私のかわりに嫌なこと全て引き受けてくれた

地獄のような毎日を生き抜くために

私が作った「ワタシ」

もう私は大丈夫だから これからは

この傷も痛みも全部 大事に抱えて生きていくよ

いつか ああ幸せだったなって思えるよう

今まで傷付けちゃったぶん 

わたしのことを 名一杯大事にしてあげたい

9/19/2023, 10:22:29 AM

【53,お題:時間よ止まれ】

それは、学校の帰り道
僕は幼馴染みの葵と一緒に帰ってたんだ。

「あおちゃん、映画のチケットとれたんだけどさ一緒に行かない?」

「えーなんの映画?」

なんて普通の会話をしながら

「あっ、ねこちゃんだ!」

「ちょ、待ってよあおちゃん」

その時だった

「危ないっ!逃げてっ!」

ギキィィィィィッッッッッ!!!!!

物凄く不快な音が耳を突き抜けて、誰かの悲鳴が聞こえた
暴走したトラックが突っ込んできたと気付くのに1秒
トラックが突っ込んでいく方向に居る、僕の大好きな人

このままだと、あおちゃんにぶつかる...!

「あおちゃんっっっっっ!!!」

今まで生きてきた中で、一番強く願った

止まれ!止まれ!止まれ!

ダメだ間に合わなッ...



................................................................................ガコン



「...あ、えっ」

その、何かがはまるような音がした。その刹那

...僕を残して、周りの全てが止まっていた

ゴムの焼ける耳障りな音も、叫ぶ人だかりも
空を飛ぶカラスの群れも、飛行機雲も全部

「何だ...これ...」

取り敢えず、チャンスだ
トラックの眼前に迫った幼馴染みを、安全な場所に移動させ
その身体に傷がないことに安堵していると


..................................................................................ガコン


また、あの音

「っ!...あ、あれ?私生きてる...」

その瞬間、周りは動き出した。まるでなにもなかったかのように

「あ、あおちゃんっ」

「わっ、茜くん!大丈夫?泣いてるよ」

さっきのは、何だったのだろうか?

心配そうに幼馴染みがこっちを覗き込んでくる

ふと、後ろの電柱の上に白い後ろ姿が見えた


よ か っ た ね


唇だけでそういうと、瞬きするまに消えてしまった

「茜くん...?どう、したの?」


あの日僕は、人ではない何かに救われたらしい

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