【57,お題:ジャングルジム】
ジャングルジム、私にもあの器用に動く五指があれば登れるだろうか
登り棒も、あの身軽さがあれば簡単に頂上まで上がれてしまうのだろうか
滑り台も、ブランコも、シーソーも
丈夫な2本の足と腕、それさえあれば私にもできるのだろうか
夕暮れ時の公園で遊ぶ、たくさんの子供の影
その子らを見守るように小さな神社の戸口から、白い蛇が顔を覗かせていた
鋭く紅い双眼で、楽しげな人の子を眺めるその姿は
どこか憂いを帯びていて、儚い眼差しだった
【56,お題:声が聞こえる】
「貴方って人は!また他の女と遊んだでしょ!?いくら使ったと思ってんの!」
「うっぜーなァ!お前こそ、たいして働いてもねーくせに!」
「なんですって!?そんなに言うなら離婚すればいいじゃない!」
パパとママ、きょうもケンカしてるなぁ...
閉じきった扉の向こうで響く、怒声と物音
電気も付いてない薄暗い部屋で、少年は描き上げた絵を片手に暇をもて余していた
『悠、今は向こうに行っちゃダメだよ』
「うん、わかった」
ほんとは、はやくママたちにみせたいけど、おにいちゃんがダメっていってるし...
「はやくケンカおわんないかな~」
『......そうだ悠、なぞなぞ好き?』
「んー、まあまあすき!」
『じゃあ、俺が出すから答えてね-』
少年には、不思議な声が聞こえる
初めて聞こえたのは、3歳くらいのときだろうか?
頭に直接響いてくる若い男性の声、親がケンカしている時の話し相手は決まって彼だった
『パンはパンでも食べられないパンはなーんだ』
「?パンはぜんぶたべられるよ」
『うーんw、そうだけど違うなぁw』
自分にしか聞こえない声、怖がらずに受け入れてるのはその幼さ故か
それとも、小さいながらに押し殺した心細さが見せた幻影か
「たべられないパンは、パンじゃないじゃん!」
『ブフッwww違う、wそうじゃないww』
どちらにせよ、関係ないことなのだろう今の少年にとっては
【55,お題:秋恋】
それは突然のことだった
親が神主の私は、よく神社の掃除を手伝わされていた
銀杏と紅葉の木が並ぶ、参道の周りの掃き掃除
いつものことながら、毎日やっていたらさすがに飽きる
しかも今日は風が強い、軽い落ち葉は私を弄ぶようにあっちへこっちへと舞い踊った
早く終わらないかな~とか、今日の夕ご飯なんだろうな~とか
雑念まみれで、ひたすら手を動かす
...チリン
「鈴の音?」
...チリン
なんだろうと、首を回らしていると
ぶわっと一際強い風が吹いた
後ろに気配を感じて振り返る、寺育ち舐めんな
「えっ...と、どちら様ですか?」
踊り舞う木の葉の中で、優雅に着物を着こなした背の高い男性
青い短髪に、秋を閉じ込めたような赤と黄色の混ざった瞳
手首につけた数珠の鈴がチリンと鳴って、その人と目があった
「あ、どうも...」
うわ、まつげ長...めっちゃ顔綺麗だなこの人
「君は...俺が見えるんだね」
そう言ってふにゃんと細められた目元
秋だというのに、彼の周りだけが春のようだった
【54,お題:大事にしたい】
大事にしたいもの 今まで大事にできなかったもの
いつもいつも我慢してた すり減っていくのがわかってた
余裕がなかったの ごめんね
もう大丈夫だよ 今までありがとう
私のかわりに嫌なこと全て引き受けてくれた
地獄のような毎日を生き抜くために
私が作った「ワタシ」
もう私は大丈夫だから これからは
この傷も痛みも全部 大事に抱えて生きていくよ
いつか ああ幸せだったなって思えるよう
今まで傷付けちゃったぶん
わたしのことを 名一杯大事にしてあげたい
【53,お題:時間よ止まれ】
それは、学校の帰り道
僕は幼馴染みの葵と一緒に帰ってたんだ。
「あおちゃん、映画のチケットとれたんだけどさ一緒に行かない?」
「えーなんの映画?」
なんて普通の会話をしながら
「あっ、ねこちゃんだ!」
「ちょ、待ってよあおちゃん」
その時だった
「危ないっ!逃げてっ!」
ギキィィィィィッッッッッ!!!!!
物凄く不快な音が耳を突き抜けて、誰かの悲鳴が聞こえた
暴走したトラックが突っ込んできたと気付くのに1秒
トラックが突っ込んでいく方向に居る、僕の大好きな人
このままだと、あおちゃんにぶつかる...!
「あおちゃんっっっっっ!!!」
今まで生きてきた中で、一番強く願った
止まれ!止まれ!止まれ!
ダメだ間に合わなッ...
................................................................................ガコン
「...あ、えっ」
その、何かがはまるような音がした。その刹那
...僕を残して、周りの全てが止まっていた
ゴムの焼ける耳障りな音も、叫ぶ人だかりも
空を飛ぶカラスの群れも、飛行機雲も全部
「何だ...これ...」
取り敢えず、チャンスだ
トラックの眼前に迫った幼馴染みを、安全な場所に移動させ
その身体に傷がないことに安堵していると
..................................................................................ガコン
また、あの音
「っ!...あ、あれ?私生きてる...」
その瞬間、周りは動き出した。まるでなにもなかったかのように
「あ、あおちゃんっ」
「わっ、茜くん!大丈夫?泣いてるよ」
さっきのは、何だったのだろうか?
心配そうに幼馴染みがこっちを覗き込んでくる
ふと、後ろの電柱の上に白い後ろ姿が見えた
よ か っ た ね
唇だけでそういうと、瞬きするまに消えてしまった
「茜くん...?どう、したの?」
あの日僕は、人ではない何かに救われたらしい