どこにも行かないで
わたしは笑っているけれど
心は揺れている。
言葉を選びすぎて
本当の想いがこぼれ落ちた。
勝ちたかったんじゃない
ただ、わかってほしかっただけ。
あなたの背中が遠ざかるたびに
胸の奥で
何度も叫んだ。
ーーーどこにも行かないで。
ただ、それだけだったのに。
好き、嫌い
「好き」と言ったあとで
少しだけ怖くなった
声にした瞬間
その想いがどこかへ逃げてしまいそうで
小さな幸せさえ、こぼれ落ちそうで
あなたと笑う時間が
まるで夢みたいに儚くて
それが「好き」の証だと
どこかで気づいていたのに
「嫌い」なんて言葉は
ほんとはどこにもなくて
ただ、不安と焦りとすれ違いが
心の隙間に忍び込んでくるだけだった
好きだからこそ、怖くなる
好きだからこそ、試したくなる
でも、好きはーー
壊したくて言うものじゃないよね
だから今日も
何も言わずに笑ってる
あなたの隣で
雨の香り、涙の跡
午後、窓の外にしずくのリズムが降り始めた。
胸の奥で何かがふと、ほどける音がした。
雨の香りが、忘れていた記憶を連れてくる。
幼い頃、傘もささずに走ったあの道。
声もなく泣いた夜に、そっと寄り添ってくれた冷たい雫。
今日は、もう泣かないと決めたはずなのに
雨にまぎれてこぼれた涙が、頬をすべっていった。
誰かに見せるつもりはなかったのに
ガラス窓に映る私が
あまりにも優しくて、あまりにも脆くて
抱きしめたくなった。
涙の跡をなぞるたび
雨が心を洗ってくれる気がする。
言葉にならない想いも
名前のない痛みも
ただ「今ここにいる」ということだけが
すべてを赦してくれる気がする。
また雨の季節が来る。
きっと私はまた
この香りに救われるのだろう。
そして、また歩き出すのだ。
静かな雨音と
やさしい涙の余韻とともに。
糸
張り詰めた空気の中
まっすぐに伸びる一本の糸。
それは運命か、それとも意志か。
切れそうで切れない
でも絡まるたびの胸がざわつく。
誰かの期待、過去の選択
抗えない流れの中で
私はただ、手操り寄せるように進んでいる。
この糸の先にあるものを
まだ知らないままで。
それでも信じたい。
自分の手で、この結び目をほどいていけると。
届かないのに
手を伸ばしても
指先が触れない
光は瞬くほど遠く
風に乗せた声も
かすかに消える
波のように寄せては返す
心のざわめき
静かに流れに身を任せても
届かないものは
やさしさで包まれて
なおも胸の奥で輝く
願いは空に溶け
雲を染める
届かないからこそ
歩き続ける
優しい夜明けを信じて
夢は遠く、星のように
きらめいて消えない
届かないのに、届けたい
その想いが
私を動かしている