雨の香り、涙の跡
午後、窓の外にしずくのリズムが降り始めた。
胸の奥で何かがふと、ほどける音がした。
雨の香りが、忘れていた記憶を連れてくる。
幼い頃、傘もささずに走ったあの道。
声もなく泣いた夜に、そっと寄り添ってくれた冷たい雫。
今日は、もう泣かないと決めたはずなのに
雨にまぎれてこぼれた涙が、頬をすべっていった。
誰かに見せるつもりはなかったのに
ガラス窓に映る私が
あまりにも優しくて、あまりにも脆くて
抱きしめたくなった。
涙の跡をなぞるたび
雨が心を洗ってくれる気がする。
言葉にならない想いも
名前のない痛みも
ただ「今ここにいる」ということだけが
すべてを赦してくれる気がする。
また雨の季節が来る。
きっと私はまた
この香りに救われるのだろう。
そして、また歩き出すのだ。
静かな雨音と
やさしい涙の余韻とともに。
6/20/2025, 12:06:36 AM