ばに

Open App
11/4/2024, 8:19:12 AM

丁寧にクリームを塗る
山猫のご馳走のような気分のわたし



「眠りにつく前に」
「鏡の中の自分」

11/2/2024, 3:37:29 AM

 前回は、存在しない洋楽バンドの、存在しない曲の、存在しない歌詞の“日本語訳”を投稿しました。
 Great Green Gingerbread は、スコットランド出身の若者4人からなるロックバンドという設定ですが、残念ながら今後の登場予定はありません。気が向けばキャラデザをまとめたり、メロディーをつけたりするかもしれませんが、みなさんの目に触れることは恐らく無いでしょう。
 こんな風に、生まれただけのキャラクターや設定が、これまでにいくつもあります。

 子どもの頃、夜眠れないときは、ひとりでごっこ遊びをしていました。暗い部屋の中、テーマパークのペンライトを照明に、お祭りの屋台で買ってもらったガラス細工や、小さな動物のフィギュアや、ただの文房具を役者として、拙い寸劇を楽しみました。あるときは冒険もの、またあるときは恋愛もの、時々はサスペンスもやりました。
 彼らを動かしているのはわたし、本来は動きも声もない無機物ですが、わたしの中ではアニメーションのように再生されていました。イマジナリーフレンズとは少し違うかも。ただ、彼らには過去も現在も未来もあって、確かに生きているように感じられていました。

 わたしにとって架空の話を書くというのは、その延長かもしれません。物を使わないだけで、やっていることは同じ。
 便宜上、自分が生み出したキャラクターと言ってはいますが、ゼロから創るというより、夢を思い出す感覚に似ています。現実に会ったことがあるわけではなく、どこか別のところから存在を借りてくる感じ。
 彼らは昔から、今も、これからも、わたしが生きていてもそうでなくても関係なく、ずっと続く物語の住人なのだと思います。飛び抜けて明るいハッピーエンドばかりでないのが、妙にリアルでいやですね。

 これまでわたしだけが思い出して楽しんできた物語を、いつか他の誰かにも伝えられたらいいなと思っています。本という形ではないかも。音楽や映画かもしれないし、なんならテーマパークかもしれません。なんて。そしたらどこかのショップでGreat Green Gingerbreadの『fall for you』を流して、そのへんのすみにガラス細工でも置いておこうかな。



「暗がりの中で」「もう一つの物語」「懐かしく思うこと」「理想郷」「永遠に」

10/28/2024, 9:22:19 AM

どういうつもりだい すれ違い様にほほ笑むなんて
始まりはいつも 突然やってくる
声が枯れるまで叫んでも この衝動はおさまらない
恋に落ちた (君が落としたんだ)
恋に落ちた (君が落としたんだ)
恋に落ちた (君が落としたんだ)
僕はただ 恋に落ちたんだ

君とふたりで歩く 黄色に衣替えした街路樹に沿って
どこまでも続く青い空を見上げ
このままずっと永遠に 永遠がなにか知らないけれど
だって恋に落ちたんだ (どうか行かないでくれ)
恋に落ちた (君が落としたんだ)
恋に落ちるってなに? (誰か教えてくれよ)
僕はただ

友達とはしないことをして
合言葉を作って遊んで
それは秘密の愛の言葉で
今やもう期限切れのパスワード
墓石に刻むんだ 僕が眠る 暗い墓穴

どういうつもりだい すれ違い様にほほ笑むなんて
君の隣には 突然現れた男
声が枯れるまで叫んでも 君はもう振り向かない
恋に落ちた (君が落としたんだ)
恋に落ちた (本当に好きだったんだ)
恋に落ちた (君が落としたんだ)

君が教えてくれた 紅茶の香り
今はちょっと 鼻が詰まってわからないや

恋に落ちた 恋に落ちた 恋に落ちた
僕はただ 恋に落ちたんだ

/ Great Green Gingerbread 『fall for you』(1988)



「すれ違い」「始まりはいつも」「声が枯れるまで」「衣替え」「どこまでも続く青い空」「行かないで」「友達」「愛言葉」「紅茶の香り」

10/19/2024, 3:43:14 AM

青く澄んだ空はどこまでも高く遠く、白い太陽は煌めいていてまぶしい。街並みは色づく広葉樹とともに。頬が火照るほどの日差しと、首元をひやりとさせる乾いた風。
どこからか、焼き団子の香ばしい醤油の匂いが漂ってくる。
ああ、こんな日は、遊園地でパンダカーに乗りたい。



「秋晴れ」

10/17/2024, 3:37:53 PM

 生きていると、まるで映画のワンシーンかのような、演出がかった場面に出会すことがある。

 その日、わたしは祖父が横たわる棺を前に、それを感じていた。
 菊を育てることに余生の意義を見出していた人だった。誰の提案かは知らないが、お別れのときに、白い菊で棺を満たす段取りとなっていた。
 大量に用意された菊の頭を、親族一同で次々と祖父のからだに盛り付けていく。まず足元、そして膝上、お腹、胸の上で組まれた手のあたり。それまで顔も知らなかった親戚たちの、涙交じりの声が音として耳に入ってくる。
 顔まわりは、同居していたわたしたちに任された。両手で掬った菊の花はまだ瑞々しく、溢れんばかりの花片からは、仄かに植物の青い匂いがした。雛鳥をおろすかのように、おそるおそる顔の横に花を添える。
 わたしの手の甲が、祖父の頬にすこし触れた。
 その瞬間、時が止まったかのように感じた。周りを取り囲む喪服の群れは、輪郭を失って混ざり合い、ただの黒い影となった。その中で、白一色に包まれた祖父だけが、ぼうっとした光の塊のように浮かび上がる。
 祖父の頬は、すでに人間の感触ではなくなっていた。ウレタンか何かのようで、完全に無機質で、物質だった。その変容が本当に恐ろしく、わたしの中のなにかのスイッチに作用したのだと思う。
 わたしは泣いていた。顔中の筋肉をぐしゃぐしゃに歪めて泣いていた。報せを受けたときも、病院で対面したときも、読経中も、ひとしずくさえ落ちる気配が無かったのに。横隔膜が痙攣を起こしたかのように、ひっきりなしにしゃくり上げ、喉を引き攣らせて泣いていた。その時まで、自分はいつ泣くのだろうかと、他人事のようにハンカチを持て余していたのに。ここだった。
 同時に、その様を遠くのほうで見ている自分も存在していた。カメラのレンズ越しに、冷静に主演を捉えていた。その涙は決して演技などではなく、むしろ突然すぎる感情の発露に自身でも動揺していたほどだったが、そこから完全に切り離された自分が、その場には居たのだ。それはもうめちゃくちゃな感情だった。

 あれからもう十数年と時は経ち、祖父の声も、写真に残っている以外の姿も、匂いも、今やもう確かなものではなくなってしまった。それなのに、ただただ、感触だけが、未だに残っている。左手の甲に感じる。ひんやりとした皮。
 
 これはきっと、一生を共にする記憶だ。人生という物語の中の、ハイライトのひとつ。観客の心を揺さぶるために、丁寧に描写されたシーン。
 それを誰が観るか、わたしは知らない。



「やわらかな光」
「忘れたくても忘れられない」

Next