[飛べ]
いつか書きたいので保存。
風鈴が好きだ。
風鈴の澄んだ音色が軒下から聞こえると、
ようやく夏になったのだと実感する。
だというのに、うちには風鈴がない。
なんということだ。
今年の夏こそは絶対に買おう。
…そう思って、もう5年は過ぎている。
[風鈴の音]
朝、起きれば最初に目に入るのは猫。
机の上で、だらりと身体を伸ばして寝ている。
昼、ご飯を作ろうと台所に立てば足元に猫。
構って欲しいのか、忙しい時に限って喉を鳴らして私の足にじゃれついてくる。
夕方、窓を開けてやれば窓辺に猫。
何をそれほど熱心に見ているのか、窓の外へ向ける視線を全く逸らさないのは少し面白い。
夜、風呂場の扉の向こうに猫。
どうやら私の姿が見えないと寂しがるらしく、足拭きマットの上に、猫のお気に入りの小さなぬいぐるみが届けられている事がよくある。
深夜、朝と同じ机の上に猫。
人の生活する時間と合わせてくれているのか、我が家の人間達が寝静まると猫も眠りにつく。
なかなか素直になってはくれないが、人を好いてくれているのはよく分かる。
どうだ、うちの猫はこんなにも可愛い。
〈誇らしさ〉
すっかり日が暮れて、夏とはいえまだ少し肌寒い夜。
私は中庭の池の上で蛍火が揺れるのを、遠くから聞こえる人々の騒めきと共にぼうっと眺めていた。
「おかあさん。蛍が祭りから逃げてきた。」
「ほんとうだ、うちにも来るんだね。」
「来年も来るかなぁ?」
「どうだろう、来るといいねえ。」
…この町に越して来て、初めて蛍を見たあの頃。母とこんな会話をしたのが懐かしい。
毎年蛍の飛ぶ頃に開催されていた大きな祭りは、すっかり規模が縮小してしまったけど…
それでも、蛍は変わらず飛んでいる。
今でも毎年 来ているよ。
〈あの頃の私へ〉
世の中、子供のままでは見れない物が多い。
その中でも、雨の日の深夜は特に好きだ。
雨粒でぼやける電灯。
道端で雨を浴びる小さな蛙。
目が眩むようなコンビニの明かり。
車のヘッドライトで浮かび上がる水溜まり。
雨粒が落ち、瞬きする程の間に消えてしまう
波紋を眺めると すぐに時間が過ぎていく。
…そんな夜を出歩ける大人は、少しだけ素敵だと思った。
〈子供のままで〉