くろくら

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 すっかり日が暮れて、夏とはいえまだ少し肌寒い夜。

 私は中庭の池の上で蛍火が揺れるのを、遠くから聞こえる人々の騒めきと共にぼうっと眺めていた。


「おかあさん。蛍が祭りから逃げてきた。」

「ほんとうだ、うちにも来るんだね。」

「来年も来るかなぁ?」

「どうだろう、来るといいねえ。」


 …この町に越して来て、初めて蛍を見たあの頃。母とこんな会話をしたのが懐かしい。

 毎年蛍の飛ぶ頃に開催されていた大きな祭りは、すっかり規模が縮小してしまったけど…

 それでも、蛍は変わらず飛んでいる。

 今でも毎年 来ているよ。


〈あの頃の私へ〉

5/24/2024, 2:10:06 PM