こんな夢を見た。
白い砂浜。浅瀬。
海へ顔を向けてまっすぐ立っている。
日は高く、海面が白く光って見える。
「今日の晩ご飯は肉じゃがにしようか。」
隣で男の声がする。
「でも…こんにゃくを紐にするのは大変だし。」
海を見つめたまま、返答する私。
「そんなの、とって来ればいいじゃないか。」
男の声は当たり前のように答える。
「どこから?」
男は耳元で囁く。
「とってきてあげる。」
私の左耳を波飛沫が掠め、海に大きなイルカが跳ねていった。
飴玉って
溶けてなくなるタイムマシーンだと思う
いちご味がする間だけ
あの頃に戻れる気がする
この夜は2度と帰って来ない、って、君も僕もよくわかってた。
「お前、いつまで卒業証書握りしめてんだよ。なくすぞ?」
「いいじゃん、日付が変わるまではまだ卒業式の日なんだし。」
何度も何度も放課後を過ごした河原。
ゴツゴツした砂利の上に2人でならんですわる。
君が僕の右隣に座るのが、いつのまにかお決まりになっていた。
「今日の家の晩飯、何だったんだろうな。」
「気になってたならお前だけでも帰って家で食べたらよかっただろ?」
「行くわけねーじゃん!クラスの奴らと集るの…これが最後なんだし。」
「最後ってわけじゃないだろ。ほら…同窓会とか。」
「来ない奴もいるだろ、数年経ったら。」
それもそうか、なんてぼんやり返事する。
卒業式にあわせて刈り上げたという、君の襟足が清々しかった。
部活を引退してから伸ばしているらしい、その前髪が風に揺れてきれいだと思った。
この3年間、誰より向かい合ったその瞳に、月明かりが反射して水面のように揺れている。
「俺、お前とバッテリー組めてよかった。」
「…僕だって。」
お互い、もうそれ以上何も言えなかった。
3月のはじめ。特別な夜。
明日君は、この街をたつ。
「美しい」という表記には、
美としての確固たる強さが宿っている。
繰り返される直線に、無機質ながら不変な自信を感じる。
「うつくしい」という表記には、
うつくしいものを目にした時の、その人の感嘆のため息が宿っている。
含まれる曲線に、つやつやと光を反射する照明のような役割がある。
私には、時々文字がそんなふうに見える。
この世界は
酷く大きく、歴史の深い地球のこと
この世界は
そのごく表面に人間を住まわせている
この世界は
多数人間の共通認識の集合体
この世界は
ひとりの両腕の手の届く範囲
この世界は
わたしの箱庭