のなめ

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この夜は2度と帰って来ない、って、君も僕もよくわかってた。

「お前、いつまで卒業証書握りしめてんだよ。なくすぞ?」
「いいじゃん、日付が変わるまではまだ卒業式の日なんだし。」

何度も何度も放課後を過ごした河原。
ゴツゴツした砂利の上に2人でならんですわる。
君が僕の右隣に座るのが、いつのまにかお決まりになっていた。

「今日の家の晩飯、何だったんだろうな。」
「気になってたならお前だけでも帰って家で食べたらよかっただろ?」
「行くわけねーじゃん!クラスの奴らと集るの…これが最後なんだし。」
「最後ってわけじゃないだろ。ほら…同窓会とか。」
「来ない奴もいるだろ、数年経ったら。」

それもそうか、なんてぼんやり返事する。
卒業式にあわせて刈り上げたという、君の襟足が清々しかった。
部活を引退してから伸ばしているらしい、その前髪が風に揺れてきれいだと思った。
この3年間、誰より向かい合ったその瞳に、月明かりが反射して水面のように揺れている。

「俺、お前とバッテリー組めてよかった。」
「…僕だって。」

お互い、もうそれ以上何も言えなかった。
3月のはじめ。特別な夜。
明日君は、この街をたつ。

1/21/2024, 5:44:30 PM