浜崎秀

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12/26/2022, 12:20:04 AM

「ああ、今日クリスマスか……」

 携帯の日付を見て漏れ出た声。冬のショッピングモールは、赤と緑、そして金に彩られ、スピーカーからはクリスマスソングが流れている。周りを見渡すと、家族連れとカップルばかりで自分は何か欠けてる存在みたいに思えてくる。

 給料日だからちょっと買い物しようと思って立ち寄ったら、思わぬところからダメージを喰らった。こんなことなら、家でゆっくりお茶漬けでも飲んでるんだった。

 かといってノコノコ帰るのも癪だ。

 彼は大きく息を吸い、雑踏の中に消えていった。

『クリスマスの過ごし方』

12/7/2022, 3:25:04 AM

 頭が上で足が下。それが一般的な感覚だろう。だけど地球は回り続けているわけで、そうなると僕らの上下感覚は主観的なものってことになる。じゃあ北極が絶対的な上なのか? 宇宙空間から見たら……

上ってどっちだ?

「逆さま」

12/5/2022, 2:22:51 PM

 興奮冷めやらぬとは正にこのこと。劇的な逆転勝利の味が、眠気を全て吹き飛ばしてしまっている。耳の奥ではまだ歓声が響き渡っている。目を瞑れば、広大なスタジアムに立っているかのようだ。勝利を求めるのは、人の本能だと云う。今ならそれがありありと実感できる。脳からは何か快楽物質がドバドバと溢れている。身体は軽く、放っておけば宙に浮くんじゃないかとすら思えてくる。全能感に身を包まれ、自分がこの世の主役だと錯覚しそうになる。

「おい〇〇!」

 強い光と、酒の匂いがする方から僕を呼ぶ声が聞こえる。みんなが僕の名を呼んでいる。

 心地いい熱気に流されて、僕は光の中に飛び込んでいった。

「眠れないほど」

12/3/2022, 11:06:38 PM

「卒業、おめでとうございます」

 先輩は、両手に抱えきれない程の花束を受け取り、満面の笑みを浮かべている。友人と後輩に周りを囲まれて、凄く幸せそうに見える。僕といた時には見せてくれなかった顔で。

 高嶺の花なのは自覚してた。だけどどうしても……もしかしたらって……そう思ったのが不幸の始まりだった。僕は失敗した。自己満足を満たすために彼女を巻き込んでしまった。最後に謝りたかったけど、今になって勇気が萎んでいく。

 彼女がふとこっちを見た。僕は咄嗟に目を逸らし、柱に隠れる。花束を持つ手に力がこもる。白い花はとっくに萎れ、重力に従って地面に向いている。

「ちょっと待ってて」

 人混みの中から声が聞こえた。こっちに来る。それを察し、僕はまた逃げた。

「さよならは言わないで」

12/3/2022, 5:53:43 AM

 みんなにはこの世界は何色に見えているのだろうか。空の青か、草木の緑か、光に照らされた白と言う人もいるかもしれない。

 私には、灰色に見える。人は白黒はっきりしたものを好むけれど、この世界の殆どはそのどちらでもない。白と黒が混じり合い、清濁合わせて成り立っている。

 私が生きていくのは、そういう世界だ。

「光と闇の狭間で」

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