秋の風は死を知らせる。植物の緑を終わらせ、動物たちに冬眠を促す。虫が鳴く季節から、凍てつく寒さが支配する世界の準備を始める。世界から色が抜け落ち、乾いた風が吹く頃ーー冬がやってくる。
『秋風』
あなたが笑えば私も笑う。あなたが怒れば私は泣く。あなたが困ってたら、どんなことでもしてあげたい。
私が笑ってもあなたは適当に相槌を打つだけ。私が怒ってもあなたはスマホを見つめてる。私か困ってたら露骨に面倒くさがる。
私は初めと何も変わらないのに、あなたは変わってしまった。またあの頃みたいに、2人で笑っていたいのにーー
『あなたとわたし』
冷たい秋風が身を震わせる。黒いコートを体に巻きつけ、静かな路地を歩く。空はどんよりと曇っている。郊外に出て、細い道を通り墓地に着いた。
迷うことなく真っ直ぐ目的地に辿り着く。灰色の墓標は、いつもと変わらずそこに立っていた。彼女の名前が刻まれている。生年は22年前、没年は1年前の今日。僕は跪き、両手でゆっくりと白い花を供える。
「また来たのか?」
背後から老人の声がする。
「今日は、どうしても来ないと」
振り返りながらそう言った。
彼は一層やつれて見えた。白髪もシワも増えた気がする。
「それで、こんな朝早くからか?」
彼の声からは本気で心配している様が伝わってくる。
「私がこういうのも何だが、そろそろ前に進むべきじゃないか? 娘もきっと……それを望んでる」
「無理ですよ」
苦笑しながらそう答える。
「毎日、毎晩、どこにいても、何をしてても、彼女との思い出が頭をよぎるんです。彼女は、僕の人生の深いところまで入り込んでいた。そう簡単には、忘れられません。それに正直、忘れたくないんです」
「……ああ、そうだろうな」
2人とも暫く無言だった。ただぼんやりと、綺麗に手入れされた墓標を見つめていた。朝日が昇り、鳥が泣き出した頃彼がおもむろに口を開いた、
「なあ、よかったら家に来ないか? 酒でも飲もう」
「ええ、是非」
そう言って、2人はゆっくりと墓地を後にした。
『哀愁をそそる』
一日の終わりには君の声を聴いていたい。辛かったことも、嫌なことも全部忘れてただ君を感じたい。
『眠りにつく前に』
上京すれば、花の大学生。そう思って必死に勉強した。だけど、世界はそんなに上手いことできてない。憧れてた理想の生活とは違った。空気は重苦しいし、夜まで煩い。常にギラギラしてて、気分はまるでジャングルだ。田舎でぬくぬく育った私は、飲み込まれないように必死でずっとビクビク怯えてる。
この歳になってようやくわかってきた。人間は完璧じゃない。人が作ったモノにも完璧なんて存在しない。街も、コミュニティも。人が住む以上必ずどこかに綻びができる。そこから段々と風化し、腐っていく。
それでも私は追い求めてしまう。社会人になったら、海外に移住したら、今よりいい暮らしができるんじゃないかって。心の中でいつも探してる。理想郷への近道を。
『理想郷』