『今日にさよなら』
記憶が爆ぜた
色とりどりの断片が
視界をこれでもかと覆い
喜怒哀楽の感情が
ごちゃ混ぜになって押し寄せる
ただ一言
「幸せだった」
棺が爆ぜた
ささくれだった木片が
自分をこれでもかと穿ち
めくれ上がった畳と血肉が
ごちゃ混ぜになって押し寄せる
ただ一言
「辛かった」
──が爆ぜた
爪が折れ
歯が砕け
目が潰れた
散り散りとなった心の欠片
その中の一片に映る負け犬が
騒々しくも遠吠えを繰り返す
『涙を拭え』
『足元の砂を払え!』
『乱れた髪なんてどうでもいい!!』
『立ち上がって前を向けッ!!!』
……何となくだ
何となく緩慢とした動きで立ち上がり
それはそれは気怠げに顔を上げる
折れた爪を剥ぎ取った
砕けた歯を吐き捨てた
潰れた目でギロりと睨み──
ただ一言
「いい人生だった」
『溢れる気持ち』
たまーにですよ?
ホントにたまーに消えたくなることがあるんです。
明るい人。
楽しそうな人。
笑顔の人。
いわゆる幸せそうな人達を見るのが、自分は好きです。
何だか元気がもらえますからね。
……本当ですよ?
けれど同時に、ほんの少しだけ羨ましくも感じてしまうだけなんです。
青春だとか恋愛だとか、キラキラしていて眩しいぐらいで、自分なんかでは直視するのも難しいんです。
頭では分かっていても、ついつい想像しては羨ましく思うんです。
やっぱり羨ましいんです。
自分には無いものだから。
自分なんかには無理なものだから。
なんだかんだと羨ましいんです。
なんだかんだと羨んで、それに気付いて虚しくなるんです。
それに気付いて虚しくなって、最終的には消えたくなるんです。
消えたくなるんです。
自分よりも恵まれない人達なんて、探せばいくらでもいるのに……こればかりは仕方が無いんでしょうね。
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【あとがき】
アプリを開けた時に、皆さんの『もっと読みたい』が届くことがあります。
なかなか投稿できていない時でも、読んでくれている人がいるのは本当に嬉しく思います。
何時もありがとうございますね!
※人によって不謹慎に感じる描写があります。
予めご了承ください。
過去作のリメイクです。
『海の底』 200
高台にある学校から帰ると、我が家が海に沈んでいた。
学校から大通りを真っ直ぐ下り、その右手側。
何時もならそこに我が家が見えてくるのだが……そこは既に海の中であった。
(そうか、もうここまで海になったんだ)
ちょうど一年ほど前だったか。
なんの前触れもなく海面が上昇し始めたかと思えば、それは急速に私達の町を呑み込んでいったのだ。
人も車も家も、町にあるものは全て同じように海に呑まれては消えていく。
なんでも、そのまま海の底で眠っているのだとか。
別にこの町だけの話では無く、世界中で同じ様な現象が起きているらしい。
……まぁ、あまり詳しくは知らないけれど。
というのも、別にニュースで報道されたりしている訳では無いのだ。
ネットで調べてみても出てくる情報は個人のSNSだけ。
海に沈んだ町並みを背景に、高校生ぐらいの子達が記念撮影をしている画像が並ぶ。
何だか分からないけれど、きっとそういうものなのだろう。
そうして海を眺めてボーっとしていると、後ろから声をかけられた。
「あー! 〇〇ちゃんちょうど良かったわ。
ちょっと待っててくれる?
一度家に戻るから!」
それだけ言うと、こちらの反応も待たずに急ぎ足で坂の上へ戻っていく女性。
母の友人で、何時も私にも親切にしてくれる△△さんだ。
数分後、何かを持ってこちらに歩いてくる。
「コレ、前に〇〇ちゃんのお母さんに肉じゃが頂いたのよ。
その時に預かったのを返そうと来てみたら、〇〇ちゃんのお家がもう海に沈んじゃってるでしょ?
どうしようかと思ってたの!」
渡されたのはタッパーだった。
そういえば前に母からそんな話を聞いた気がする。
「『肉じゃが美味しかったわ』ってお母さんに伝えておいてくれる?
〇〇ちゃんも待たせちゃってごめなさいね。
風邪、ひかないようにね……?」
そうして△△さんは、今来た道を引き返して家へと帰っていった。
△△さんを見送った私は、取り敢えず我が家に帰るため海に入る事にした。
右足から入って左足、腰、胴、肩……そして頭。
全身が海にすっぽりと入ったが、不思議と体に対して浮力は無く、地面に足をつけて歩く事が出来る。
……恐ろしさは感じなかった。
それどころか、心が落ち着いていく感覚すらある。
そのまま我が家の前まで来た私は、玄関の鍵を回し扉を開ける。
「ガポァイバァ ー《ただいまー》」
口から泡を出しながら声をかけると、廊下の奥から鮫が現れ、ゆったりとした動きでこちらに向かって泳いでくる。
そしてそのまま私の目の前を通り過ぎると、開けたままだった玄関から外へと出て行った。
玄関を閉めた私は自室へと鞄を放り投げると、台所にタッパーを浮かべる。
そのまま両親の寝室に行き、中を覗いてみれば……二人とも既に布団へ横になり眠っていた。
メモ紙が浮いている。
『〇〇へ
先に寝ています
父、母より』
(……それぐらい見たら分かるよ!)
私の両親は二人ともおっとりしていて、少し天然気味だ。
この話題になると何時も本人達は否定するが、私は間違いないと思っている。
……ともかく、私ももう寝る事にした。
自室でパジャマに着替えた後、掛け布団と枕を持ってくると、両親の間に割入って横になる。
普段は一人で寝るのだが、今日ぐらいはこういうのも悪くないだろう。
(次に起きたら、肉じゃがのこと教えてあげないとな)
少しずつ眠りに落ちていく私の鼻先を、小魚達がくすぐった。
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【慰霊の言葉】
自然災害によって亡くなられた方々のご冥福を、心よりお祈り申し上げます。
※人によっては不快な表現があります。予めご了承ください。
『寒さが身に染みて』
震える指で煙草を吸う。
とある田舎の一軒家。それを取り囲む塀にもたれかかりながら、ため息と同時に紫煙を吐き出した。
自宅前の道を挟んだ路肩にある、少し前に新調されたばかりの街路灯が、自分とその周辺をぼんやりと照らす。
時刻は既に0時を回り、冬の寒さに肩を窄めながら空を見上げれば、田舎特有の綺麗な星空が広がっていた。
「……何してんだろな」
ポツリと言葉が漏れる。
こんな時節に、薄手のシャツとジーンズのみを着て、一人外で煙草を吸っている自分を自嘲する。
地元の高校を卒業した後、夢を叶えるために上京し、お金を稼ぎながら努力した。
苦労はしたが、少しづつ夢に向かって近付いていく感覚はとても心地良く、自分はその熱に浮かされていたんだ。
……実家の母から父が罹患し倒れたと聞いたのは、それから数年後の事だった。
その時に聞いた母の悲痛な話し声が、今も脳裏から離れない。
急いで帰郷した自分を待っていたのは、こちらに対して気丈に振る舞う母と、病室のベッドに呆けた様子で座っている父の姿。
……血栓症による脳梗塞だった。
母だけで介護は無理だ。
父を独り施設に預けるのもしたくない。
田舎だから家までヘルパーを呼ぶのも難しい。
だから……だから自分は──
──夢を諦めて家業を継いだんだ。
これは自分の選択だ。
自分の決めた人生だ。
自分を育ててくれただけでなく、身勝手な夢まで応援してくれた母と父に、少しでも恩返しがしたかった。
そのためなら自分の夢なんてどうでもよかった。
……どうでもよくなったんだ。
そう思っていた筈なのに、未だに自分の中では微熱が燻っている。
自分に言い聞かせるように、小さな声で俯いてボヤく。
「誰だって妥協しながら生きてるんだ。
何も自分が特別な訳じゃない。
そんなに引きづることなんてないだろ?
……なぁ、そうだろう??」
震える指で煙草を吸う。
何時もより紫煙が長く尾を引いたのは……きっと寒さのせいだろう。
『雪』
夢を諦め熱を失い
ゆらり ゆらりと落ちていく
生きたくないけど死にたくない
死にたくないけど生きたくない
贅沢でいて我儘な
矛盾を行ったり来たりする
冷たいままに彷徨い歩き
かじかむ心の感覚は
いつしか麻痺して無くなった
差し伸べられた手を避ける
今のこんな自分では
人肌でさえ溶けそうで