ノーム

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10/20/2023, 2:32:47 AM

『すれ違い』


ネット恋愛が流行っていると聞きました。

ネットでは基本的に、話している時お互いの表情は分かりません。
そしてそれは相手の感情の読み取りづらさに繋がります。
ですからネットでは、リアルよりもより"強い言葉"を使う方が多いのです。

例えば『尊敬』
例えば『大好き』
例えば『愛してる』

ネットでのこれらの言葉は、リアルよりも大きく価値が下がります。
それは当然の帰結であり、悪い事ではないのですが、この事を意識出来ていないままに親密になると、お互いの感情に齟齬が生まれてしまいます。

……簡単に言えば、ネット恋愛は上手くいかない事が多いのです。

『大丈夫?』

ネットでそう言って貰えた時、とても心配そうにしている相手の顔が、思い浮かんではいませんか?

『愛してる!』

ネットでそう言って貰えた時、とても真剣で優しげな相手の顔が、思い浮かんではいませんか?

イメージによって、不足している情報《表情》を補足する。
これがネット恋愛が流行る理由の、主になる部分であるように感じます。

コンパクトでいてカジュアルな恋愛。
けれど相手は理想のパートナー。

はてさて、リアルの相手は……自分と同じくらいの熱量が本当にあるのでしょうか?

9/23/2023, 4:33:20 PM

『ジャングルジム』 175


大して足も早くないのに、あの子は鬼ごっこが強かった。
ほとんど鬼になったことがなくて、それを教室で自慢げに語っていた。

鬼ごっこが始まれば、何時もジャングルジムの中央に陣取っていたあの子は、今ごろ何処で何をしているだろうか?

アイツと遊んでも楽しくないと、未だに言われてはいないだろうか?

あの子の楽しみ方を理解してくれる。そんな友人を見つけることは出来ただろうか?

ジャングルジムの中央で、楽しく笑い続けていけたなら……それが一番幸せだろう。

9/20/2023, 9:58:39 PM

『大事にしたい』


『この世界に産まれた時、既に最後には死ぬことが確定してる。だから本来、全ての物に価値なんて無い』

この主張が正しいものだと仮定すると、本当に大事なのは『死ぬまでに、どれだけ自分という存在をこの世界に残していけるのか』な気がします。

最も分かりやすい方法は子孫を残すことでしょうか?
歴史に名を残すような偉業を成し遂げるのも一つの手かも知れません。
それらが難しい場合は、誰かの記憶に残るような事をするのが現実的でしょうね。

しかしそう考えると、昨今のSNS社会というのは大変ですね。
自分が得意としていることでも、世界を見てみれば、同じ様な特技をもっている人が星の数ほどいます。
その中でより輝くためには、それに見合うだけの実力が必要になってくるのです。

昔よりも多くの人に見てもらえる変わりに、誰かの印象には残りずらくなった社会。

世界中の人と簡単に繋がれるのに……何だか少し寂しく感じます。

9/16/2023, 6:59:55 PM

『空が泣く』


「雨が降っていた」

時刻は夕方6時30分。
田舎とも都会とも言い難い町の、細いとも太いとも言い難い道の真ん中に、君はいた。

濡れた髪が額に張り付き、雨を含んで色が濃くなった服が、重たそうに地面へと伸びている。

君の左後ろにはチカチカと点滅を繰り返す街路灯があって、少し離れた所でぽつねんと生えているカーブミラーがそれらを映し出していた。

地面のアスファルトを雨が打つ度に、雨粒が爆ぜてキラキラとした光を弾く。

「強い雨が降っていたんだ」

分厚い雲に覆われた空の下、君の近くに出来た小川は、夕日に照らされて鮮やかな朱色を魅せていた。

何時までも降る、雨に見られて。

9/10/2023, 10:40:48 PM

『喪失感』


死んだらそこでお終いだ。

死のうと思えば何時でも死ねる。
けれど一度死んでしまえば、二度と生きることはない。

何時か誰にでも訪れるそれには、恐怖というより虚しさを覚える。

宇宙が誕生してから137億年。
その中の一瞬にも満たない時間、まるでバグのように産まれてしまった私に、一体なんの意味があるというのか。

死んだらそこでお終いならば、如何して私は産まれてきたのか。
生きていることの方が不自然だと、そう考えるのは自然じゃないのか。

一寸にも満たない虫《バグ》がいて、それが生死について考える。
誰がそんな与太話を、信じて聴いてくれるというのか。

産まれてしまったが故に、死ななければならないならば。
産まれなければ死なずにすんだと、空虚なことを言うのであれば。

この世で命を獲得《喪失》した時、既に私は死んでいたのか。
既に私は死んでいて、終わった世界を生きているのか。

ならば私が感じるこの喪失感も、"夢中に夢を説く"ような、取り留めもないことなのだろう。

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