『天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、』
そんな前置きなんて必要のないほど簡単なことなんだ。
閑話休題なんて小難しい言葉も必要無いよ。
誰がどう思おうが僕の話したいことは一貫していて、それをどれだけ捏ねくりまわしたところで僕の伝えたいことは変わらない。
それはもちろん天気の話を前置きにした程度では変えられない真実ではあるけれども、僕は単刀直入にこの話を伝えたいんだ。
……いや、伝えないといけないんだ。
それが何かしらの妥協によって曖昧な言葉にすり替えられてはいけない。
本来ならそんな事が起こるはずもない、それほどまでに僕が話したいことは簡潔なものなんだ。
……だけどどうだろう?
それを相手に伝える勇気が足りない。
話す直前で怖気付いてしまった。
伝えるタイミングを見失ってしまった。
理由は様々あるだろうけど、そうして会話に行き詰まってしまった僕達は、その焦りからか少しでも汎用性の高い話題を探し始めてしまう。
代表的なものでいえば今日の天気の話が挙げられるだろう。
だけど多くの場面でそれは本来伝えたかったこととは全く関係が無いもので、そんなもののせいで真実にノイズが混じってしまうことが僕は馬鹿らしく思えてならないんだ。
" 天気の話なんてどうだっていいんだ。"
僕が話したいことは……つまりそういうこと。
『「ごめんね」』 140
あのな、あんたさん?
謝って済むなら警察なんていらへんと思いませんか?
……ん?
なーんか波風立たんように頑張っとんのは分かるよ?
『ごめん』やら『すみません』やら取り敢えずゆーとけば、ある程度めんどーごとも避けれるしな
それはめっちゃ分かる
でもそない謝ってばっかおったら、いつか悪い人に付け込まれるよーってゆーとんさ
知り合いがそないなったら、こっちも胸糞悪いやろ?
……ん?
あんたさんちゃんと聞いとる?
……聞いてなかったやろ?
あーー!!
ほらまたそうやって『ごめん』ゆーやろ!
かっー!!
これやからもうあんたさんは!
っとにもう、何で分からんもんかなー!
それがアカンてゆーとんに
えぇ?なに?
…………うるさい??
……おぉ
……おう
……確かにな
……そらそやわな
なんてゆーか……そのぉ
…………ごめんしてな?
『月に願いを』
「月って人間に例えると腹黒っすよね」
「……それはどうして?」
「表側は綺麗でも裏側は汚いらしいっすよ、月って。
腹黒っぽくないっすか?」
「でも月は暗い夜に光を届けてくれるわ」
「それだって自分で輝いているように見えるっすけど、実際は太陽の光を借りてるだけっすよね?
それで綺麗だの美しいだの言ってもらえるんすから、人でいうなら嘘吐きの偽善者みたいなもんっすよ」
「それでも良いじゃない。
"やらない善よりやる偽善"
私達からしたら裏側なんて見えないし、その輝きの違いも分からないわ。
私達が知っている月は、綺麗で美しくて夜空を照らしてくれる素敵な存在よ」
「確かにそうかもしれないすけど……っていうか会長、机に寝転がってマンガ読むの辞めてくださいよ。
誰かに見られたらどうするんっすか……!」
「大丈夫よ。
生徒会室の鍵なら閉めてあるし、仮に見られたとしても適当に取り繕って微笑みかければ一発で誤魔化せるわ」
「はぁぁ……お願いしますよ、ホントに。
会長に憧れてる生徒も多いんすから」
「心配症ね。
なら私は裏の顔がバレないように、大先輩の月にでもお願いしておこうかしら?」
「……あたしも憧れてたんだけどなぁ(小声)」
「何か言った?」
「……なんもないっす」
『透明な水』
実のところは私達
みんながみんな水の中
だけどだーれも気が付かない
何故なら水が透明だから
……科学の力で気が付ける?
いやいやそんなの意味ないですよ
何故なら宇宙も水中だから
この世の全ての法則なんて
この水ありきのものなんです
仮に気が付けたとしても
その瞬間に苦しくなって
声も出せずに溺れちゃうんです
『理想のあなた』
"ある朝、グレゴール・ザムザがなにか気懸かりな夢から眼をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な毒虫に変わっているのを発見した。"
フランツ・カフカ 『変身』
この話……大ッ嫌いです!
~~以下ネタバレを含みます~~
ここまで自分の嫌いな要素が詰め込まれている作品は珍しいですね
コメディとハッピーエンドの皮を全く被りきれていない、胸糞の悪すぎる正真正銘のバッドエンドです!
異論は認めたくない!
けど……仕方がありません、認めてあげましょう!(傲慢)
この作品は冒頭でも書いた通り、主人公であるグレゴール・ザムザが毒虫になるところから始まります
……はい、この時点で最悪ですね
毒虫になってしまった事が嫌なのは当前ですが、それよりも何よりもグレゴールが特別な存在では無いことに自分は恐怖しました
グレゴールは何か特別な能力を持っていたわけではありません
特別変わった価値観でもなければ、特別変わった家庭に産まれたわけでもないんです
それなのに朝起きたら毒虫ですよ?
やってられませんよ、本当に
この作品が理不尽文学と呼ばれる所以ですね
強いて挙げるなら……そうですね、グレゴールは家族想いの好青年でした
理想の息子であり
理想の兄であり
理想の大黒柱でした
だからこそ、こんな作品の主人公に選ばれてしまったんでしょうね……クソ喰らえですっ!
…………コホン(咳払い)
まぁそんなわけで理想の家族の一員であったグレゴールは一転、悍ましくも簡単には見捨てられない邪魔者へと"変身"をとげたのです
途中の話は割愛します
色々あった結果、グレゴールは父に投げられた林檎が原因の傷で弱っていき、最後は家族にも見捨てられて一人孤独に死んでいきます
グレゴールはその時に理解するんです
自分がこれまで、どれだけ家族に愛されていたのかを……愛していたのかを
大きな家族愛とその幸せを理解しながら、グレゴールは天へと召されていきました
次の日、干からびた大きな毒虫の死骸をゴミに出した家族は清々しい気持ちで散策へと出かけます
そうして晴れた空の下……これからの輝かしい未来に向けて、家族みんなで思いを馳せるのでした
ハ・ッ・ピ・ー・エ・ン・ド
………………んなわけあるかいッッ!!
………………
…………(´ρ`*)ヴッヴン(咳払い)
なんかもう……ねぇ?
あれですよねぇ?
誰かに対して理想とか抱かない方が良い気がしますし、誰かにとっての理想にもなりたくないですね
……何でかまではイイマセンガ(小声)
別に怖がりというわけじゃないですよ?
夜中でも一人でトイレに行けますし?
……ん?朝起きたら毒虫になってる?
……ははっ、(ヾノ・∀・`)ナイナイ
所詮フィクションですよ?
そんな事あるわけないじゃないですか
…………ねぇ?