『こんな夢を見た』
真夜中のショッピングモール。
既に消灯の時間は過ぎたのだろう、モール内は薄暗く、ガラス窓から射し込む月明かりだけが唯一の光源となっている。
そこに悲鳴が上がった。
場所はモールの二階、悲鳴と共に激しく走る足音が、一階へと続くエスカレーターに向かって近付いてくる。
悲鳴を上げながら走る人物……あれは自分だ。
その後ろからは何者かがナイフを持って自分を追いかけて来ていた。
自分はその何者かから逃げるため、電源が落とされ可動していないエスカレーターを一段抜かしで駆け下りていく。
そうして一階へと辿り着くと同時。
「誰だっ!」
という声と共に懐中電灯が此方へと向けられる。
夜間の警備員さんだ。
(助かった……!)
自分は警備員さんに縋り付くと、状況を説明しようとする。
ある人物に追われている事、その人物はナイフを持っていて自分を殺そうとしている事、その人物がもうじき此処に現れる事。
それらを必死に伝えている最中に……奴は現れた。
「ハァ〜、あんた足速いなぁ」
…………友近だ。
バラエティ番組で活躍している"あの"友近である。
お笑い芸人であり、ロバートの秋山とよくモノマネを披露している"あの"友近である。
……訳が分からない。
本当に訳が分からない……が、自分は友近に命を狙われていたのだ。
そもそも如何して真夜中のショッピングモールに、自分と友近がいるのかも分からない。
ともあれ自分は友近に対して恐怖心を持っているので、友近との間に警備員さんを挟み、じりじりと後退りをして距離をとる。
警備員さんにはある程度事情を説明したので、あとは友近を拘束してもらって終わりの筈だ。
その筈なのだが……何故か警備員さんと友近が談笑している。
自分は失念していたのだ、有名人である友近とどこの誰とも知らない自分では、その発言力に大きな差がある事を。
……流石バラエティの女王、口が上手い。
そのまま和やかに話をしていたかと思うと、警備員さんが此方に笑いながら振り向き、手をこまねく。
もちろん自分は行かないが……それを確認した警備員さんは友近に一言二言何かを話すと、こちらに向かって歩いて来た。
そして自分の前で止まると、自分に何かを話そうとした。
そう……話そうと"した"。
警備員さんが言葉を発する事は無かった。
何故なら警備員さんの口から出てきたのは言葉ではなく、それはそれは赤い鮮血だったのだから。
いつの間にか友近が警備員さんのすぐ後ろに立っていた。
その右手に待ったナイフで、警備員さんの首を突き刺して……真顔で此方を見ていたのだ。
ヒィッとか、ヒュッとか、とにかく言葉にもならない引きつった音が自分の口から漏れた。
友近が自分に近づく。
友近の真顔が自分に近づく。
右手に持った血だらけのナイフを此方に向けながら。
友近が……。
──
─────
───────ハッ!
ここで目が覚めました、起きてすぐは正直すっごく怖かったです。
後で思い返すと意味が分からなさすぎて笑えますね!
……ちなみに誤解なきように言っておくと、自分は友近さんの事好きですよ?
何時も楽しく観させていただいてます。
『タイムマシーン』
「うざい」
切り替わる
「気持ち悪い」
切り替わる
「あんたなんか」
場面が
「死ねばいいのに」
切り替わる
積み重なった過去の私が
恨めしそうに此方を睨む
怖くて恐くて
脇目も降らずにただ逃げる
……後ろから肩を掴まれた
何十何百と手が伸びてきて
身動きひとつ取れなくなった
そんな私に囁くのだ
そんな私が囁くのだ
"お前のせい"だと
"自業自得"だと
耳元で口々に……そう囁くのだ
『海の底』
高台にある学校から帰ると、我が家が海に沈んでいた。
学校からまっすぐ坂を下ると、右手側に我が家が見えてくるのだが……そこは既に海の中だった。
(そうか、もうここまで海になったんだ)
ちょうど一年ほど前だったか、急速に海が町を呑み込み始めたのだ。
もちろん人も同じように海に呑まれては消えていく、なんでもそのまま海の底で眠っているのだとか。
この町だけでは無い、世界中で同じ現象が起こっているらしい。
あまり詳しくは知らない。
というのも、別にニュースで報道されたりしている訳では無いのだ。
ネットで調べてみても個人のSNSで『海の中なう(≧∇≦)』みたいな投稿が、沈んだ家の画像と一緒に引っ掛かるだけ。
何だか知らないけど、そういうものなんだろう。
そうして坂の半ばでボーっとしていると、後ろから話しかけられる。
「あー!〇〇ちゃんちょうど良かったわ、ちょっと待っててくれる?一度家に戻るから!」
そう言うと坂の上に急ぎ足で登っていく人物。
近所のおばさんだ、母の友人で私にも親切にしてくれる気の良い人。
数分後、何かを持ってこちらに歩いてくる。
「コレ、前に〇〇ちゃんのお母さんに肉じゃが貰ったのよ。その時に預かったのを返そうと来てみたら、〇〇ちゃんのお家がもう海に沈んじゃってるでしょ?困ってたのよ〜」
渡されたのはタッパーだった。
そういえば前に母からそんな話を聞いた気がする。
「『肉じゃが美味しかったわ』ってお母さんに伝えておいてくれる?〇〇ちゃんも待たせちゃってごめなさいね〜、風邪ひかないようにね?」
それだけ言うと坂を引き返して家に帰っていった。
おばさんを見送った私は、取り敢えず我が家に帰るため海に入る事にした。
右足から入って左足、腰、胴、肩……そして頭。
全身が海にすっぽりと入ったが、不思議と体に対して浮力は無く、地面に足をつけて歩く事が出来る。
恐ろしさは感じなかった、それどころか心が落ち着いていく感覚すらある。
そのまま我が家の前まで来た私は、玄関の鍵を開け扉を開ける。
「ガポァイバァ ー(ただいまー)」
口から泡を出しながら声をかけると、廊下の奥から鮫が現れこちらに向かって泳いでくる。
鮫はそのまま私の目の前を通り過ぎると、開けたままだった玄関からゆったりとした動きで出て行った。
……なかなか貴重な体験が出来たんじゃないだろうか?
玄関を閉めた私は自室に鞄を放り投げると、台所にタッパーを浮かべる。
そのまま母と父の寝室に行き覗いてみれば、二人とも既に布団へ横になり眠っていた。
……メモ紙が浮いている。
『〇〇へ
先に寝てます
父、母より』
(見たら分かるよ……まぁ、別にいいけど)
私の親は二人とも天然が入っている、本人達は否定するが間違いない。
……ともかく私ももう寝る事にした。
自室でパジャマに着替え、掛け布団と枕を持ってくると、母と父の間に割入って横になる。
普段は一人で寝るのだが、今日ぐらいはこういうのも悪くないだろう。
(明日は一体どこまでが海の底になるんだろう)
少しずつ眠りに落ちていく私の鼻を、小魚達がくすぐった。
『君に会いたくて』
……目的地にはまだ着かない
──ガタンゴトン
規則的な振動が体を揺らし、ふと顔を上げる
後ろ窓から入り込んだ心地よい春の陽気に、少しうとうとしていたようだ
──ガタンゴトン
車内を見渡せばロングシートの座席に、数人のお年寄りがぽつぽつと座っている
"都会とは大違いだな"
……なんて考えるのは傲慢だろうか?
──ガタンゴトン
横長の車窓からは絶えず日差しが射し込み、車内を明るく照らす
その光の奥には田園風景が広がっており、遠くの雑木林が風に吹かれてはさわさわさわさわと揺れていた
そんな長閑な景色が映画のフィルムのように左から右へと流れては消えていく
──ガタンゴトン
……目を閉じる
暗闇が広がるそこに、君との思い出を描いていく
あんな事があった、こんな事があった
あんな表情があった、こんな感情があった
君との思い出は……どれも鮮やかだった
──ガタンゴトン
数分後、再び目を開き顔を上げると……外の景色に目を奪われた
そこには菜の花畑が広がっていた
晴天の下、陽の光を浴びた菜の花はまるで自ずから輝いているように美しい
──ガタンゴトン
君に似合った花だった
君が好きな花だった
君と愛した花だった
──ガタンゴトン
あぁ、今日は……
──ガタンゴトン
あぁ、今日はなんて……
──ガタンゴトン
「……絶好の自殺日和なんだ」
──ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン
……目的地にはまだ着かない
『閉ざされた日記』
2✕✕✕年〇〇月△△日(日曜日)
天気(晴れのち隕石)
今日で世界が滅亡するらしいので、今回は朝から日記を書いています。
……本来は一日の終わりに書くものですが、その頃には既に世界が終わっているでしょうから仕方がありませんね。
今だに信じられませんが、何か巨大な隕石が地球に衝突するみたいです。
今日はせっかくの日曜日だというのに空気の読めない隕石です、殴りつけてやりたいぐらいですよ。
私にスーパーマンのような力があれば良かったのに…… 遠い昔に絶滅した恐竜さんもこんな気持ちだったのでしょうか?
……そもそも恐竜さんはスーパーマンなんて知りませんね。
日記を書くのも今日が最後だと思えば何だか感慨深いものです。
最後はどんな言葉で飾りましょうか?
…………よし、決めました。
地球の皆様、良いしゅうまつを!
────パタン