『君に会いたくて』
……目的地にはまだ着かない
──ガタンゴトン
規則的な振動が体を揺らし、ふと顔を上げる
後ろ窓から入り込んだ心地よい春の陽気に、少しうとうとしていたようだ
──ガタンゴトン
車内を見渡せばロングシートの座席に、数人のお年寄りがぽつぽつと座っている
"都会とは大違いだな"
……なんて考えるのは傲慢だろうか?
──ガタンゴトン
横長の車窓からは絶えず日差しが射し込み、車内を明るく照らす
その光の奥には田園風景が広がっており、遠くの雑木林が風に吹かれてはさわさわさわさわと揺れていた
そんな長閑な景色が映画のフィルムのように左から右へと流れては消えていく
──ガタンゴトン
……目を閉じる
暗闇が広がるそこに、君との思い出を描いていく
あんな事があった、こんな事があった
あんな表情があった、こんな感情があった
君との思い出は……どれも鮮やかだった
──ガタンゴトン
数分後、再び目を開き顔を上げると……外の景色に目を奪われた
そこには菜の花畑が広がっていた
晴天の下、陽の光を浴びた菜の花はまるで自ずから輝いているように美しい
──ガタンゴトン
君に似合った花だった
君が好きな花だった
君と愛した花だった
──ガタンゴトン
あぁ、今日は……
──ガタンゴトン
あぁ、今日はなんて……
──ガタンゴトン
「……絶好の自殺日和なんだ」
──ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン
……目的地にはまだ着かない
1/19/2023, 2:42:11 PM