『心と心』
「アンタに私の気持ちの何が分かるのよっ……!」
「分からないよ……そんなの分かるわけ無いじゃんっ!」
「なら構わないでよっ!放っておい「でもっ!」て……」
「でもっ……貴女の気持ちを考える事ぐらいなら出来るもんっ!」
「貴女の苦しみが分かるなんて、口が裂けても言えないけど……」
「貴女の気持ちを少しでも理解しようと、考えて努力する事は出来るからっ!」
「だからっ……だから、貴女の苦しみの一つでも良いから!」
「私にも一緒に背負わせてよっ……!」
「……どうして……私なんかに構うのよ」
「アンタいったい何なのよ……」
「……ワケ分かんないわよ」
「貴女も私の気持ちが分からないんだ……」
「じゃあ……お互い様だね!」
お互いに人の心なんて読めやしない
お互いに相手の心なんて分かりっこない
しかしそれでも
そこでは確かに心と心が向かい合っていた
『何でもないフリ』
え?
何でもないよ?
別に?
羨ましいとか思ってないし?
嫉妬?
何それ美味しいの?
私は私じゃん?
オンリーワンじゃん?
なら何にも問題ないよね?
何にもおかしくないよね?
……は?泣いてないし?
そもそも私とは関係なくない?
ねぇ?
そうだよねぇ?
だから……だからさ
もう何も聞かないでよ
……どうでもいいんだからさ
『仲間』
得意なことなんて無いし
特殊な力も持って無いし
志しだって無いし
特別な考えがある訳でも無いし
変わった価値観も持ち合わせて無いし
有名人の知り合いも居ないし
何なら友達なんて居ないし
波乱万丈な人生でも無いし
武勇伝なんて無いし
青春なんて経験無いし
好きな事も特に無いし
恋愛もしたこと無いし
何となく生きてるだけだし……仲間にしてくれる人なんているかなぁ?
…………あ、お金も無いからね?
『部屋の片隅で』
部屋がある
部屋の中心にはテーブルが一つあり、その上にはマグカップが二つ置かれている
どちらも中には冷めたコーヒーが半分ほど入っており、片方にはラップが掛けられている
そしてその部屋の片隅には──
────
その日は朝から母がパートへと出掛けた
その日は父の仕事は休みで、私より起きてくる時間が遅かった
その日は私も学校が休みで、母が出掛けた時の玄関の音で目が覚めた
……その日は日曜日だった
私の家族はみんなコーヒーが好きだった
だからみんな朝起きたら決まってコーヒーを飲んだし、それぞれ自分用のマグカップだってあった
その日もそうだった
私が起きてきた時には既に母の姿は無く、テーブルの上には母のマグカップが置かれていた
急いでいて飲みきれなかったのだろう、そのマグカップにはまだ半分ほどコーヒーが残っており、ラップが掛けられていた
私が自分のコーヒーを飲み終わりマグカップを洗っていると、寝室から父が起きてきてそのままトイレへと入っていった
その間に自分のマグカップを片付け終えた私は、父の分のコーヒーも用意してあげる
インスタントのコーヒーなので、粉を入れてしまえば後はお湯を入れて完成だ
父がトイレから出てきたのでマグカップにお湯を入れ、二人で他愛のない話をして暇を潰す
──♪──♪──♪
父のスマホが鳴った
電話に出てすぐに父の雰囲気が変わった
事故だとか病院だとか不穏な言葉が聞こえる中に、母の名前が時折混じる
父は私に家に居るように言いつけると、慌てた様子で家を出て行った
私はその時……何もしていなかった
何をしたらいいのか分からなかったのだ
自分のスマホを握り締めながら、ただチクタクチクタクと時計の針が進む音だけを聞いていた
──♪──♪──♪
……私のスマホが鳴った
────
部屋がある
部屋の中心にはテーブルが一つあり、その上にはマグカップが二つ置かれている
どちらも中には冷めたコーヒーが半分ほど入っており、片方にはラップが掛けられている
そしてその部屋の片隅には──
──スマホを持って茫然と立ち尽くす……私がいたのだ
『逆さま』
人生何が起こるか分からないものですね。
今まで順調に山を登ってきたのに、足を滑らかして崖から真っ逆さまです。
しかしまぁ、命綱をしていたので地面に落下する事は免れました。
不幸中の幸いですね。
ただ足にロープが絡まってしまって、頭逆さに宙吊り状態です。
不幸中の幸い中の不幸ですね。
そのままどうすることも出来ず、ブラーンブラーンとしていたら上に人影が見えました。
血が上ってクラクラとしてきた頭で、上にいる人に聞こえるよう大声で助けを求めます。
「頭に血が上って限界ですぅー!誰か助けて下さいぃー!」
ってね。
そしたら上にいた人も気付いたみたいでして。
「よしっ、任せろぉ!」
なんて力強い返事をしてくれたんです。
私、安心しましたよ。
(あぁ、これでやっと引き上げてもらえる!)
って、そう思いましたもん。
そう、思ったんですけどね……。
──バシャバシャバシャッ
ビックリですよね。
上にいた人……いや、上にいた阿呆は私の顔めがけて冷水をかけ始めたんですよ。
止めるように言おうとしても『やめゴボォ!なにガパァ!』なんて言葉しか出せませんでした。
当たり前ですよね、冷水がめっちゃ鼻と口に入ってくるんですもん。
正直もうね、てめぇこの野郎ぶっ"ピー"してやる
とか思いましたよ、えぇ。
そして最後に阿呆が一言。
「どうだぁ!これで頭が冷えただろう?なに、人として当然の事をしたまでだ、感謝はいらん!」
そう言って『ガハハ』と笑いながら去っていきました。
…………いや、いやいや、違うから、そうじゃないから。
引き上げろよ、いやほんとマジで。