『部屋の片隅で』
部屋がある
部屋の中心にはテーブルが一つあり、その上にはマグカップが二つ置かれている
どちらも中には冷めたコーヒーが半分ほど入っており、片方にはラップが掛けられている
そしてその部屋の片隅には──
────
その日は朝から母がパートへと出掛けた
その日は父の仕事は休みで、私より起きてくる時間が遅かった
その日は私も学校が休みで、母が出掛けた時の玄関の音で目が覚めた
……その日は日曜日だった
私の家族はみんなコーヒーが好きだった
だからみんな朝起きたら決まってコーヒーを飲んだし、それぞれ自分用のマグカップだってあった
その日もそうだった
私が起きてきた時には既に母の姿は無く、テーブルの上には母のマグカップが置かれていた
急いでいて飲みきれなかったのだろう、そのマグカップにはまだ半分ほどコーヒーが残っており、ラップが掛けられていた
私が自分のコーヒーを飲み終わりマグカップを洗っていると、寝室から父が起きてきてそのままトイレへと入っていった
その間に自分のマグカップを片付け終えた私は、父の分のコーヒーも用意してあげる
インスタントのコーヒーなので、粉を入れてしまえば後はお湯を入れて完成だ
父がトイレから出てきたのでマグカップにお湯を入れ、二人で他愛のない話をして暇を潰す
──♪──♪──♪
父のスマホが鳴った
電話に出てすぐに父の雰囲気が変わった
事故だとか病院だとか不穏な言葉が聞こえる中に、母の名前が時折混じる
父は私に家に居るように言いつけると、慌てた様子で家を出て行った
私はその時……何もしていなかった
何をしたらいいのか分からなかったのだ
自分のスマホを握り締めながら、ただチクタクチクタクと時計の針が進む音だけを聞いていた
──♪──♪──♪
……私のスマホが鳴った
────
部屋がある
部屋の中心にはテーブルが一つあり、その上にはマグカップが二つ置かれている
どちらも中には冷めたコーヒーが半分ほど入っており、片方にはラップが掛けられている
そしてその部屋の片隅には──
──スマホを持って茫然と立ち尽くす……私がいたのだ
12/7/2022, 2:38:05 PM