『微熱』
──ピピピッ
37.3
……あぁ、熱が下がったのか。
希望というウイルスに感染し
恋という病を患い
夢という症状がでた
……高熱だった
だが熱が下がった。
微熱はある、しかし──
この程度の熱では希望はもてない。
この程度の熱では恋もできない。
この程度の熱では夢をみれない。
熱が上がって欲しいと願う異常者な私は
健常とは言い難い身体を引き摺りながら
後遺症である微熱に延々と苛まれる
……この先も、きっと。
『落ちていく』
日が落ちる
穴に落ちる
眠りに落ちる
恋に落ちる
落ちていくものは色々あれど、その共通点は何だろうか?
落ちるという事はやはり、矢印は下向きに向かうもので……あー……そう!
詰まるところ……そういう事だろう
うん……アレ、えぇっと、アレだよアレ
……なんだっけ?
…………うーん、"落ち"つかないなぁ
なんちゃって!
『夫婦』
お互いに妥協し
お互いに尊重しあう
それがコツみたいなもんだろう
まぁ夫婦に限ったことではないが
私の経験ではそんな事ぐらいしか言えないのだ
……我ながら薄いなぁ
悲しくなる
『どうすればいいの?』
──パタン
本を閉じて一呼吸
…………何だこの駄作?
どうやって出版まで漕ぎ着けた??
ここの編集者はどうしてしまったんだ???
次から次へと疑問が湧いて出てくる
手に持った本を傾け、表紙に目を落とす
無駄に豪華なイラストに、無駄にスタイリッシュな字体でタイトルが載っている
【勇者セイバー物語】
~勇者、それってつまりブレイバー~
『俺の物語は……ストーリーだ』
出版:書習慣社
……やかましぃわっ!
ツッコミどころは多々あれど、兎にも角にもイラッとした
そもそも最近はトラックに轢かれて異世界転生しすぎだろう!
ラノベ好きの私でも飽き飽きとしてきた展開からのこの駄文っ!
このっ!駄文っ!
ふざけんなっ!
そんな事を考えながら本を棚に戻し、馴染みの本屋を後にした
店を出て数分
──キャーー
足早で歩く私の近くで、何ともステレオタイプな女性の悲鳴が聞こえた
何事だろう?と、そちらの方に顔を向けたその瞬間
──グサッ
これまたチープな擬音と共に、私の腹部が俄に熱を持って意識が遠のいていく
──誰かが男に刺されたぞっ!
そんな声が聞こえると同時に、プツンと意識が無くなった──
────
──ハッと目が覚める、どうやら仰向けに寝転がっていたらしい
ぐっと体を起こし辺りを見渡す
…………冷や汗がひとつ流れた
次から次へと流れては、顔の輪郭をなぞるように落ちていく
その視界の先には何処とも知れない草原が広がっており、青々とした空には図鑑でしか見たことの無いような翼竜が飛んでいた
「……違う、そうじゃない……そういう事じゃないのよ」
彼女、名前を"角 柊花"《かく しゅうか》という
今まさにっ!彼女の物語が始まったのだっ!
「……あぁ、名前までつけられたぁ」
そんな私の情けない嘆きは、よく分からない生き物のギャーとか、ギェーとかいう鳴き声に掻き消されたのだった
『宝物』
アイツの宝物を奪ってやった
なのにアイツは飄々としていた
……腹が立った
何故だか無性に腹が立ったのだ
だからアイツのもとを去る時に、ふと目に付いたゴミを蹴飛ばしてやった
……ただのチンケな八つ当たりだった
ガシャーンと、何かが壊れる音が響いた
……自分はその時の事をずっと後悔している
取り返しのつかない事をしてしまったと後悔しているのだ
ゴミを蹴ったその時──
『……っ!っあぁ!っあああ゙ア゙ァ゙ッッ!!』
──その時、背後から聞こえたアイツの悲鳴が……今だに耳にこびりついて離れてくれないのだから