『どうすればいいの?』
──パタン
本を閉じて一呼吸
…………何だこの駄作?
どうやって出版まで漕ぎ着けた??
ここの編集者はどうしてしまったんだ???
次から次へと疑問が湧いて出てくる
手に持った本を傾け、表紙に目を落とす
無駄に豪華なイラストに、無駄にスタイリッシュな字体でタイトルが載っている
【勇者セイバー物語】
~勇者、それってつまりブレイバー~
『俺の物語は……ストーリーだ』
出版:書習慣社
……やかましぃわっ!
ツッコミどころは多々あれど、兎にも角にもイラッとした
そもそも最近はトラックに轢かれて異世界転生しすぎだろう!
ラノベ好きの私でも飽き飽きとしてきた展開からのこの駄文っ!
このっ!駄文っ!
ふざけんなっ!
そんな事を考えながら本を棚に戻し、馴染みの本屋を後にした
店を出て数分
──キャーー
足早で歩く私の近くで、何ともステレオタイプな女性の悲鳴が聞こえた
何事だろう?と、そちらの方に顔を向けたその瞬間
──グサッ
これまたチープな擬音と共に、私の腹部が俄に熱を持って意識が遠のいていく
──誰かが男に刺されたぞっ!
そんな声が聞こえると同時に、プツンと意識が無くなった──
────
──ハッと目が覚める、どうやら仰向けに寝転がっていたらしい
ぐっと体を起こし辺りを見渡す
…………冷や汗がひとつ流れた
次から次へと流れては、顔の輪郭をなぞるように落ちていく
その視界の先には何処とも知れない草原が広がっており、青々とした空には図鑑でしか見たことの無いような翼竜が飛んでいた
「……違う、そうじゃない……そういう事じゃないのよ」
彼女、名前を"角 柊花"《かく しゅうか》という
今まさにっ!彼女の物語が始まったのだっ!
「……あぁ、名前までつけられたぁ」
そんな私の情けない嘆きは、よく分からない生き物のギャーとか、ギェーとかいう鳴き声に掻き消されたのだった
11/21/2022, 11:38:00 AM