観測者

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7/3/2024, 1:04:25 PM

この道の先に

見えない。さっぱり見えない。まっしろい霧が執拗に先の道を曇らす。
そのくせ後ろの霧は薄ぼんやりとしていて、なんとなく遠くの方まで見えてしまうから困りものだ。
よーく目を凝らして見てみると、いつかに見た絶景や恐ろしい動物が見えてくる。時たま、地面にほんのちょっと生えているだけの、すぐに忘れてしまうようなちいさい花々も見えてくる。
まあ、だからといって先に進まない訳にもいかない。進まなきゃここでのたれ死ぬし。
仕方ないから、今日も霧の中を進んでいく。さて、いい景色は見られるかな。

6/11/2024, 9:24:16 AM

やりたいこと

高校受験では、ひたすらに勉強していた。
そこそこ評判のいい学校に入って、また勉強した。
大学受験も頑張ったが、第一志望には受からなかった。
なんとなく落ち込んだが、滑り止めには受かったのでそこに通った。
就活は緊張したが、早いうちに内定を貰えたのでよかった。
適当に卒論も乗り越えて、無事に卒業した。
会社勤めは楽じゃないけど、そんなにブラックでもなければ薄給でもないので満足している。
最近は同僚に告白されて付き合い始めたりもしている。
夢が無くても、推しがいなくても、案外生きていけるものらしい。

6/8/2024, 5:14:14 PM

岐路

大学はどこにしようか。
ここでようやく、進路というものをはっきりと意識した。
エスカレーター式に進むもよし、別の学校を受けるもよし。
間違いなく、人生の岐路と言えるような選択だ。
しかし、ただ言われるがままに勉強していただけの私には、やりたいことが分からない。
なら、また流されてみようか。
きっと、ただぼうっと空を見つめるような人生も悪くない。

6/7/2024, 9:28:45 AM

最悪

瓦礫に染まりゆく街に、独り私がいる。
コンクリートの隙間に生える僅かな草を踏みむしりながら進む先には、ひとつの影がある。
辿り着いたその場所に、求めるものがある。
真っ白な肌に、艶やかに波打つ髪。
そっと髪に触れる。次に頬をなでる。
なめらかな質感の肌は、精巧な人形を想起させる。現実とは思えない手触り。夢なら覚めればいい。
何度も肌に触れるうちに、後悔と悲哀と諦観と、言葉にならない感情が溢れて止まらなくなる。
この場所が瓦礫になる少し前、落下した瓦礫にあなたの脚が折られた時の、あの絶望に染まる表情が脳に焼き付いて離れない。
『私はいいから先に逃げなよ。大丈夫、あとから追いかけるから』
笑顔でそう言って、不穏な様子の建物から私を逃がした。
あなたは崩壊に巻き込まれたのだろうか。想像を巡らす度に苦しくなる。
いっそ運命を共にするべきだったのかもしれない。
せめて、私が弔わなければ。残酷に腐り落ちる前に。
私はライターの引き金を引けぬまま、眠るあなたをずっと眺めていたい。

6/5/2024, 3:32:03 PM

誰にも言えない秘密

独りの夜は、時々涙を流してしまう。
掃き溜めに溜まった不安と不満を洗い流すために。
あなたがいてくれさえしたら、こんなことを考える必要もないのだけれど。いないものは仕方ないかな。会いたいな。
この寂しさは寝て起きればいなくなっているから、人に見せることはできない。だから今日も独りで泣く。
頬を伝う涙は、なんだか甘酸っぱい味がした。

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