観測者

Open App

最悪

瓦礫に染まりゆく街に、独り私がいる。
コンクリートの隙間に生える僅かな草を踏みむしりながら進む先には、ひとつの影がある。
辿り着いたその場所に、求めるものがある。
真っ白な肌に、艶やかに波打つ髪。
そっと髪に触れる。次に頬をなでる。
なめらかな質感の肌は、精巧な人形を想起させる。現実とは思えない手触り。夢なら覚めればいい。
何度も肌に触れるうちに、後悔と悲哀と諦観と、言葉にならない感情が溢れて止まらなくなる。
この場所が瓦礫になる少し前、落下した瓦礫にあなたの脚が折られた時の、あの絶望に染まる表情が脳に焼き付いて離れない。
『私はいいから先に逃げなよ。大丈夫、あとから追いかけるから』
笑顔でそう言って、不穏な様子の建物から私を逃がした。
あなたは崩壊に巻き込まれたのだろうか。想像を巡らす度に苦しくなる。
いっそ運命を共にするべきだったのかもしれない。
せめて、私が弔わなければ。残酷に腐り落ちる前に。
私はライターの引き金を引けぬまま、眠るあなたをずっと眺めていたい。

6/7/2024, 9:28:45 AM