ベルの音がひとつ鳴って、僕の鼓動は一層早くなる。
いつか君はこれを「命の消費」だと言った。私のためにたくさん鳴らしているんでしょう?一生で鼓動する回数は決まってるんだって。だからこれは『命の消費』だね、って。きれいにわらって。
なんてことを言うひとに、恋をしてしまったんだろう僕は。
僕とベルと、君の笑顔が、銀世界に刻みをひとつ。
大事にしたいものをちいさな腕に抱えて歩いてきた。何よりも大事に、一生懸命に持っていただけなのに、ガラス細工やむっつのあの子のこころみたいに大事にしていただけなのに、いつのまにか心臓から離れなくなってしまった。
脂肪や繊維の癒着した腕は醜悪で、きっと誰もが顔を顰めるようなかたちをしている。
わたしのだいじだいじ。
わたしだけの、わたしのとくべつ。
どうしてそんな顔をする。どうしてそんなにわたしを睨む。わたしは、わたしだけの大切はそんな顔でわたしを見たりしないはずで、あのこはずっときれいで、やさしくて、わたしだけをみていて、
だからこれはあのこじゃなかった。わたしのたいせつがこんなにみにくいわけがない。
それなら壊して、隠してしまおう。見せないように、見つからないように。
大事だいじなわたしのたいせつ。あのこはずっと、ずっと、ずっとずうっと、わたしだけのたいせつでいればいい。
No.19【大事にしたい】
貴方のきらめきを求めて、届かないことのわかりきった空に、非力な手を伸ばしていた。おぉ神よ、愚かなわたしをおゆるしください。
No.18【きらめき】
「こんなパーティ、ふたりで抜け出しちゃおうよ」
唐突な提案は、澄んだ桃色と深いみどりの香りを纏った、はじめましての君からだった。
四角いきっかりした箱からゆらゆら香ったそれは、わたしの鼻先を擽り、心臓を掴んで離さない。
そのまま私ごと、そちらに連れ出してくれればいいのに。
あのときの「つまらないパーティ」みたいに。
初夏、美しく澄んだ清涼な空気が吹いてわたしは、君の残り香を今日も追う。
No.17【香水】
気が向いたら加筆修正
貴方さまへのすべてをここに、貴方ただ一人のために記します。愚かなわたしを、貴方さまの愛が赦してくださることを祈っております。
貴方から頂いた夢のひとかけら(7E-2762)、今は毒殺木馬館の地下4.75階5A号室にたいせつに仕舞っております。
また、後世まで受け継ぐようにとお預かりした白昼夢黒曜石は、伽藍島の風雷半島を貴方の鼻先としたときの、首に宿ったホクロの位置に。
貴方さまが私どもへ与えてくださった夢や、祈りや愛や目や言葉や、そのほかすべてに感謝しております。私どもの矮小な魂では受け取りきれないほどのおおきなエネルギーを、ちいさな一人間に惜しみなく注いでくださったこと、忘れは致しません。貴方さまのいらっしゃらない伽藍は信じ難いほどつめたく、さみしく、一層暗く沈み、貴方さまの還りを待っています。我々は、一同心より貴方さまの復活を心よりお待ちしております。貴方さまのおそばには、いつでも私どもの魂が居りますことをお忘れなきよう。
それでは、87年5ヶ月と3日9時間31分9秒後の貴方さまへ、誰よりおおきな愛と、信仰を込めて。
No.16【わたしの日記帳】
※全て架空