貴方のきらめきを求めて、届かないことのわかりきった空に、非力な手を伸ばしていた。おぉ神よ、愚かなわたしをおゆるしください。
No.18【きらめき】
「こんなパーティ、ふたりで抜け出しちゃおうよ」
唐突な提案は、澄んだ桃色と深いみどりの香りを纏った、はじめましての君からだった。
四角いきっかりした箱からゆらゆら香ったそれは、わたしの鼻先を擽り、心臓を掴んで離さない。
そのまま私ごと、そちらに連れ出してくれればいいのに。
あのときの「つまらないパーティ」みたいに。
初夏、美しく澄んだ清涼な空気が吹いてわたしは、君の残り香を今日も追う。
No.17【香水】
気が向いたら加筆修正
貴方様へのすべてをここに、貴方ただ一人のために記します。愚かなわたしを、貴方様の愛が赦してくださることを祈っております。
貴方から頂いた夢のひとかけら、今は毒殺木馬館の地下3E号室にたいせつに仕舞っております。
また、後世まで受け継ぐようにとお預かりした白昼夢黒曜石は、伽藍島の風雷半島を貴方の鼻先としたときの、首に宿ったホクロの位置に。
貴方が私どもへ与えてくださった夢や、祈りや愛や目や言葉や、そのほかすべてに感謝しております。私どもの矮小な魂では受け取りきれないほどのおおきなエネルギーを、ちいさな一人間に惜しみなく注いでくださったこと、忘れは致しません。貴方様のいらっしゃらない伽藍は信じ難いほどつめたく、さみしく、一層暗く沈み、貴方様の還りを待っています。我々は、一同心より貴方様の復活を心よりお待ちしております。貴方様のおそばには、いつでも私どもの魂が居りますことをお忘れなきよう。
それでは、87年5ヶ月と3日9時間31分9秒後の貴方へ、誰よりおおきな愛と、信仰を込めて。
No.16【わたしの日記帳】
※全て架空
鳥のようにそらを飛び回ることが夢だった、なんて言ったらあなたは、その柔らかな眼を細めて笑うだろうか。
私の大切な祈りを無碍にされたとき、あなたは自分が傷付くことも厭わず怒ってくれたけど、あなたの臆病なコミュニケーションはいつも、私をちいさく傷付けていたよ。善良であり続けたかったあなたは、無垢な笑顔で壊したくなかったものを傷つけていることに気付きもしない。
あなたのやさしい自分本位の臆病が、いつか誰一人傷付けないおおきな愛になれますように。
No.15【鳥のように】
私は、鏡に映るわたしを愛せない。
完璧でないアシンメトリーな目、頬を踊るそばかす、上がらない睫毛、かさついたくちびる、嫌な色の瞳。どれもが世間の定める「美」からずれている。
自分の理想像を鏡に向かって語りかければ、願いが叶うらしいと、聞いたことがある。人間の脳は単純だから、自分の姿を見て偽りの褒め言葉を浴びせ続ければ、その勘違いを現実にしてくれるのだ、と。村の娘はいつだって、そういうウンザリするようなおとぎ話に敏感だ。
へぇ、そうなの。
すごいじゃない。
あなたなら大丈夫よ、きっと。
女の会話に必要なのは、テンプレートみっつだけ。
毎日同じような噂話を同じ場所で同じ作業を繰り返しながら、だなんて呆れちゃう。私はあなたたちみたいにはならないんだから。
だから、私は今日も暗示をかける。
「わたしは醜いシンデレラ。わたしはちいさな農村の娘。」
鏡の前で口角を引き上げたわたしはきっと、世界の誰よりかわいい娘。
No.14【鏡】