透明な水
だが、いつも透明とは限らない。
ある時は土を飲み込み濁り、
ある時は異物や石、モノを飲み込み荒ぶり、
ある時は私たちの身体を潤し、
如何なる時も変化する。
人の心も透明な水に同じく、変化し続けている。
純粋無垢な色合い、悪逆に染まる色合い、
喜々として弾む色合い、深淵のように黒ずく色合い…
あの透明な水を見ていると、つくづく思う。
私にも、あのように美しく綺麗で透明な水のように
ただ無垢な色合いの身があった時を。
私の身も精神も、あの色合いには到底成り得ない。
その時は過ぎ去り、
浄化する時間を無視し続けて過ぎた。
もう、あの時には戻れない。
今も、これからも。
ただただ、濁り続ける。
あの日、ある種の決別の日。
もう戻る事は無い、時間と感情。
ひたすらの愛と親身さを持つ者からの決別。
単なる、記憶の一片にしかもうない
ただの決別
あなたのあの日の言動、あの日の行動が
私を、そうさせた。
あの日をもって、
あなたがもたらす全ての行いに、
何の意図も感じなくなった。
だからもう、既に全てが遅く。
あの日を私は忘れられない、いつまでも。
一年後には
この病が少しでも寛解へと
向かっている事を祈りたい。
若かりし日々を、
肉体・精神共に老齢の者に蝕まれ、
ひたすらに謳歌するであろう一日一日を、
ただひたすらに寛解へと徹する日々に変える。
ヤツが言う。
若かりし日を滅茶苦茶までに謳歌した日々を。
散財し、娯楽に浸り、異性に浸る日々を。
ならば言おう。
真剣な眼差しさえも偽りと罵り、
質問事を時間の無駄、思考停止と蔑み、
下劣な限りの話題に相槌を打ち、
罵声や嘲笑すらも“お言葉”として捉える。
下衆の限りを尽くしてもなお、
若き者をコケにし、問い詰め、潰しに掛かる。
貴様らに何の権利があって、
毎日のように
若き者たちが死にゆき、苦しみ、
慟哭の限りを尽くさねばならないのか。
根本より、若き者たちに先は無いとでも言うのだろう
………
一年後の私へ。
どうか、苦しみが寛解へと向かい、
その憎悪が少しでも消える事を
ただ、願いたい。
ここに二錠の薬がある。
これを飲めば安らかな睡眠を得られるだろう。
だが、半永久的に飲まなければならない。
その期間は、自由の一部は得られない。
この薬を飲まなければ、
君は束縛された人生の一部を謳歌出来るだろう。
代わりに、毎夜温度調節が効かない身体と
無象の恐怖、制御不能の精神を付与される。
さあ、君はどちらを選ぶ?
どちらを選ぼうとも、
“楽園”の感覚は得られるだろう。
………
もし君が、前者を選ぶのならば
私は一瞬拒む心を見せるだろうが、歓迎しよう。
もし君が、後者を選ぶのならば
私は君を静観し、讃えるだろう。
ようこそ。
“楽園”という名の地獄へ。
ようこそ。
地獄という名の“楽園”へ。
善悪は、誰しもが心に秘める
二極対となる感情
善意だけの人間は在らず
悪意だけの人間も在らず
少なからず、どちらも心に秘めている
それゆえに、
善人であっても気まぐれで悪行を犯する。
悪人であっても戯れのように善行をする。
完璧な善意、完璧な悪意に満ちた人間など、
初めから存在などしていなかった。
だが、人はその一方にのみ満ちた人を求める。
完璧な善意をもって全てに救済を。
完璧な悪意をもって全てに絶望を。
それを持つ者を、求めている。
だが、それは無い。
両方孕んでこその、人なのだ。
それでこそ、
人は面白く、醜く、愚かしく、可笑しく。
ああとても、とても…オもしロイ。