梵 ぼくた

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2/20/2024, 1:09:36 PM

『 同情するなよ,馬鹿野郎 』

2/19/2024, 11:30:29 AM

《輪廻転生》とはよく聞くが,本当にそうなるかなんて誰も知らない。
実際,経験したこともないから口先だけでベラベラと語れるのだろう。

しかし
あの日,あの場所,あの時間。

彼女に出逢えた奇跡は,輪廻転生とやらを信じてしまった。

ルビーを溶かし流したような紅い目,珊瑚が埋まった金色の鍵,鈴のように転がる笑い声。

…彼女を構成するもの全てが,彼奴にそっくりだったから。


瞼に浮かぶ貴方の微笑みを,噛み締めるようにゆっくりと堪能する。あの日から数百年経った今でも,未だに思い出してしまい辛いものだ。

貴方を思えば,穹が緋色に染まる。

逢魔が時…彼女たち《天照》の隊員にとって,1番の山場。昔から,この時間帯は魔物に遭遇する確率がうんとあがると言われている。

そんな《影》を倒すのが彼女達の仕事。
生きるも死ぬも表裏一体なこの世界で,オレは彼女を死んでも守る,そう誓ったんだ。

カサ,と音を立て枯葉を踏みしめれば,ふわ…と白い息が宙を舞った。

「 もうすっかり冬だな 」

肺に充満した空気が,ちくりと牙を剥く。
白いマフラーに顔を埋めれば,彼女がオレの手を引いた。

『 そーだな!!この先もっと寒くなるぜ!! 』

にか,と太陽のような笑顔を見せれば,仲間が待つ神社へ向かって駆け出す。

カサ,カサ,と枯葉を踏みしめて。

枯葉のように積もり積もったこの思いは,生涯をかけて彼女へ伝えるつもりだ。

だから,オレの前から消えないで。
絶対に,守り抜いてみせるから。

2/18/2024, 5:40:37 AM

お気に入り,と言われたら即座に思いつくものがある。

引き出しの隅っこに眠っていた,小さな鍵。

全体が金で塗られ,真ん中に大きな赤い宝石がくっついている。
ルビーか何かなのかな,といつも疑問に思いながらソレを指先で軽く突いてみた。

幼少期に譲り受けた物だから,誰の所有物だったかなんて忘れてしまった。
覚えていることと言えば,アタシと同じ紅い眼をした綺麗なヒトだったような気がする。

譲ってもらった事にはきっと何か理由があるのだろうと思って,お守りがわりに常日頃身につけている。
銀色の糸を通して首からさげ,学校に通う時は制服の下に隠している。見つかったら色々と面倒くさいもんな。

そういえば,玄武と初めて出会ったあの日,これ指さして何か呟いてた気がするけど…思い出せないって事はさほどどうでもいい事なんだろう。

まぁいいか。

…さてと,今日は彼奴らと合同任務だっけな…
さっさと隊服に着替えて,編み上げブーツを慣れた手つきで履きこなす。
もちろん,その鍵を首からさげて。

『 おい玄武!!行くぞ!! 』

日本庭園のようなだだっ広い家の庭に,どこか哀愁漂う雰囲気を纏いながら立ち尽くす彼に声をかける。

こちらに気がつけば,ゆっくりと歩いてくるのだが…いつも鍵を視界に入れては一瞬だけ辛そうな表情を浮かべる。
幾らアタシが契約者だからって,玄武の過去に首は突っ込まないさ。

でも,あの日,なんて言ったのかは気になるけどな。


「 なんで君が…その鍵を…?それは…死んだオレの相棒の… 」

2/16/2024, 1:26:23 PM

氷のように澄んだ空気を吸い込めば,ずきりと肺を刺激する。
そんな心地いい季節に,彼は1人,星降る夜にカスミソウを愛でていた。
何処までも純白な彼らが織り成す大地は,まるで1枚の大きなシルクのようだ。

ごろん,と寝転がっては北風に煽られる前髪を虚ろな瞳でじ…と見つめる。


…丁度100年前のこの日,貴方は生命を落とした。
か弱い者を守る為に,自らの身体を犠牲にして。


耳を澄ませば鈴のような笑い声が聞こえそうな,まだ隣にいてくれているような,そんな…現実逃避をしてしまっている自分が馬鹿馬鹿しい。
ぽっかりと浮かぶ満月に貴方を重ねれば,一筋の涙が目尻を伝い地に落ちる。

あんなに近くにあるのに,決して手が届かない。

もどかしさを感じながら,無理だとわかりきっているのに,月へ向かって手を伸ばす。

『 会いたいよ 』と小さく呟けば,風に乗せて天国のあなたへ運ばれるだろう。


誰よりも,何よりも,貴方を愛していた。

2/15/2024, 11:55:36 AM

『 生きて 』


そう書かれた手紙が,枕元に置いてあった。
まだ重い瞼を擦りながら,白い便箋をひょいと持ち上げてみる。
羽根布団の温もりを全身で感じたまま,手紙に書かれた1文の意味を読み取ろうと試みた。
……が,どうも汲み取れない。

ショボショボする瞳をかっぴらき,手紙の表裏に何度も目を通してみた。
掠れた字体,書き始めのインク溜まり,走り書きのような少し崩れた日本語…

…この字,アタシの字じゃん。

そう認識しては,眠気なんて風に飛ばされてしまった。
こんな手紙書いた事ないのに…と不信感に陥っていれば,誰かが扉を叩く音がする。

「 起きた?任務入ってるんだけど 」

『 ぁ〜…はいはい 』

彼の心地の良い低音ボイスが鼓膜を揺らす。
任務…今日は何処の神社だっけな,と呑気な事を考えながら布団から出て,手紙を四角く折りたたんだ。

何も入っていない鍵付きの棚へ置けば,首を傾げてしまってやった。


10年後,その意味が解ることは,誰も知らないだろう。

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