Morita

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5/5/2024, 8:16:34 AM

耳を澄ますと、スマホの中からすすり泣く声が聞こえてきた。

「助けてください、出られないんです」

その声はスマホのスピーカーのあたりから聞こえてきて、耳に当てるとまるでスマホで通話しているみたいな格好になる。

「なんでそんなところに? っていうかあんた誰?」

スマホの中にいるこいつを救出するには、スマホを分解しないといけない。なんで身も知らないやつのために、そこまでしないといけないのだ。

スマホの中の小人は、少し口ごもってから、

「あなたです」

「は? 何言って」

「私は、未来のあなたです。寝ても覚めてもスマホばかりいじっていたら、車にはねられて体を失った時、天国にも地獄にも行けず、スマホの中に閉じ込められてしまったんです。だから、お願い。私をここから……」

けたたましいクラクション。顔を上げれば、巨大なトラックが目の前に迫ってきていた。

【お題:耳を澄ますと】

5/3/2024, 4:58:58 AM

「地獄カレー10辛、ブートジョロキアマシマシで」
「……お客さん、それは」
「できませんか?」
「食べきれない場合、食べ残し料金を頂きますが」
「知ってます」

優しくしないでください。



【お題:優しくしないで】

5/1/2024, 11:31:23 PM

選べない。
軽井沢のお土産屋で私は頭を抱えた。

壁一面に並ぶ色とりどりのジャム。手前には試食用の瓶。常時100種類取り揃えているらしい。さすがは果物王国長野。

王道のジャムから変わり種まで。リンゴにイチゴ、ハスカップにルバーブにスットコドッコイにホゲホゲナンタラ。

初めはわいわいはしゃいでいたけど、試食しすぎて何が何だか分からなくなってしまった。普通にお茶が飲みたい。
カラフルで美しく見えたそれらが、今やうるさく見えてきた。

「無理しなくていいよ」
「でもさあ」

せっかく軽井沢に来たんだし、ジャムは買いたいじゃん。

人は選択肢がありすぎると、逆になにも選べなくなる性質があるらしい。この間何かの本で読んだ。なんだっけ。そうだ。本のタイトルは「適職の探し方」。



【お題:カラフル】

4/19/2024, 11:56:53 AM

「昨日寝てない」
「えー」
「ゲームしてた」
「うそ。今日テストなのに?」
「うん。どうしてもやりたくなって」
「珍しい。なんのゲーム?」

美来はふと口をつぐんだ。私から目を逸らし、つぶやくように、

「『もしも未来を見れるなら』」
「え?」
「そういうゲーム」

一体どんな、と美来に聞こうとしたちょうどその時、教室に社会科の平川先生がやって来た。一限は日本史のテスト。

鎌倉時代に今川義元に壬申の乱。

大事な期末テストなのに、解答欄を埋めながらも頭はさっきのゲームのタイトル。

いつも真面目に勉強している美来を夢中にさせたそれは、一体どんなだろう。

ふと顔を上げる。あれ、と息を呑む。
教室の時計がおかしい。針が五本に増えている。文字盤も0から32まで数が振られていて。

気のせいだよね。テスト用紙に目を戻す。あれ。先ほど回答した文字がねじれる。兼倉寺代にラ川我π、+田ノ舌し……。


【お題:もしも未来を見れるなら】

4/18/2024, 12:20:08 PM

筆先が震えている。絵なんて描きたくない。雪原のように真っ白く広大なキャンバスが怖い。たった一筆で汚してしまうから。

展覧会に絵なんて出すんじゃなかった。
美術部の顧問にそそのかされて、手近な一枚を出したら、それが


【お題:無色の世界】

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